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八柱の王国──黙って仕分けていたら、総務公女が全員を沈めた ――そして帳簿が、王座に座った。

作者: 月白ふゆ


本作は、「酪農公爵」「魔道伯爵」「芋男爵」「麦子爵」「狩猟侯爵」「海産辺境伯」、

さらには「豆庶民」と「総務公女」という、異世界でも珍しい“産業貴族×書類無双”構造でお届けする読み切り短編です。


「王が死んだ」ことから始まる王位争い……かと思いきや、

最終的に帳簿が王に就任するという、静かで笑えてちょっと沁みる改革譚。


登場する貴族たちは皆、真面目に“自分こそが国家の支柱”だと信じています。

でも、それぞれに偏りがあり、得手不得手があり、何より数値化に耐えられない面も多い。


その中で淡々と全てを見極め、仕分け、黙らせていくのが──

地味だけど最強の「総務公女」。


「声の大きさではなく、整った帳簿が世界を変える」

そんなお話をお楽しみください。




 王が崩御したという報が入ったとき、真っ先に動いたのは酪農公爵だった。


「──王が死んだ? では次に搾乳するのは、誰だ」


 宮廷会議室の長卓に響く声は、牛舎で使うような怒号である。筋骨隆々の男が上等な椅子をきしませて立ち上がり、部屋中に牧草と干し草の香りが立ち込めた。


 これが、酪農公爵リダン=ドゥーリッシュ。

 辺境の牧地から出てきた牛乳至上主義者にして、“乳神の使徒”を自称する者である。


「王など誰でもよい! この国の柱は牛だ。牛がいなければ、民は飢え、文化は腐り、国は死ぬ。よって次王は、我が家系より選出されるべきだ!」


「また乳か。貴様の議論は常に白く濁っている」


 静かに、そして狂気じみた口調で反論したのは、魔道伯爵アストル=アル=スヴェルである。背中に何冊もの古書を背負い、杖の先には瞳孔のように蠢く魔眼石が浮かんでいる。


「王という存在は、“国家の再構成装置”でなければならぬ。酪農などただの栄養、構造ではない。魔道が支配しなければ、世界は崩れる」


「堅い話は眠くなるでぇ……」


 芋男爵クレイ=イモリスが、大きな芋を片手にぼそりとつぶやいた。テーブルの上にはすでに干し芋とふかし芋と芋の煮物が並べられており、誰にも配っていないのにいつの間にか会議用の茶器に芋汁が注がれている。


「どんな偉そうな王も、芋が食えなきゃ死ぬんや。ようは根っこや。腹が満たされんと民は動かん」


「根っこじゃ足らんのよ。ほら、パンでもどうぞぉ?」


 麦子爵アリエス=フィレールは、自家製の小麦パンを薄く切って各貴族に押しつけていた。ふわふわの白パンにはバターが香り、会議室が一瞬でベーカリーと化す。


「麦は文化! 酒は芸術! 祭りにパンがなければ民は踊らない! 酒税も安くしましょうよぉ〜」


「貴様のパンはうまい。だがな……!」


 突然テーブルを蹴り上げて立ち上がったのは狩猟侯爵ラグド=ヴァルハイン。肩には熊革、腰には鹿角のナイフ、背には二メートルを超える大槍。獣の匂いがする。


「肉を喰ってこそ民は育つ! パン? 芋? 乳? 貴様らの話は草ばかりだ!」


 その瞬間、会議室に“潮の香り”が差し込んだ。海産辺境伯マール=ヴェルノンが、濡れた長靴を引きずって入室する。


「──全員、黙れ。いまが潮の満ち引きだ」


 手には巨大なサバを提げ、腰には塩袋。声は低く短い。

 彼の席にだけ潮風が吹いている。


「海は満ち、民は乾物で飢えをしのぐ。魚の骨は、王より強い」


 ――議論は、もうめちゃくちゃだった。


 乳、肉、魔法、芋、パン、魚。


 五大産業貴族がそれぞれ王位に色気を見せ、会議は既に紛糾していた。

 さらに庶民代表のはずのノモ・バン、通称“豆庶民”が何故か同席しており、

 味噌汁をすすりながら一言も発していないのに、誰よりも存在感を放っていた。


 そして、長卓の末席。

 一人の地味な女性が、書類を静かに束ねていた。


 名を、アウローラ=クラウゼル。

 元王の遠縁であり、総務局長代理。

 通称──総務公女。


 その視線が一度だけ上がる。


 全員の動きが、わずかに止まった。


 だが彼女は一言も発さず、再び書類に目を落とす。


 嵐の前の、沈黙だった。




「まずっ……!」


 狩猟侯爵ラグドが、配られたパンを口に放り込んでむせた。


「こんなもんで肉の代わりになるか!」


「おやぁ? 麦は育てるのも加工するのも手間がかかるんですよ?」

 麦子爵アリエスが、ふんわり笑顔のままパンをスライスし直しながら言う。

「それに祭りの舞台裏にはパンがある。どれだけ肉を焼いても、パンがなければ挟めませんよ」


「挟むことが目的か? 肉は語るんだ。骨で、筋で、血で!」


「血、な。せやけど血が足りんときに栄養くれるんは芋やで」

 芋男爵クレイは、ゆっくりと干し芋を噛みながら言い放った。

「焼けば甘いし、煮れば柔らかいし、干せば長持ち。安定供給の神や」


「安定だけでは支配はできん」

 魔道伯爵アストルが、いつの間にか座席の上に立っていた。

 彼の背後に浮かぶ魔道書のページがペラペラと風にめくれていく。

「国家に必要なのは体系。王の存在は象徴ではない、“構造の固定装置”であるべきだ。よって我こそが最適で──」


「おう、うるさいぞ四角メガネ」


 潮の匂いとともに、マール=ヴェルノンの低い声が重なった。


「知識だけでは、海は読めん。漁師は天と潮と魚を読む。陸にある塔の外で生きてから言え」


「黙れ潮臭い鱗野郎! 海の恵みなど腐敗のリスクを孕んだロマンだ!」


「発酵を否定したな?」

 酪農公爵リダンが静かに立ち上がる。

 筋肉が軋む音とともに、彼の右手が──搾乳ポーズを取った。


「発酵とは愛。時間の結晶。匂いの芸術。乳がなければ赤子は泣き、王も育たぬ」


「牛の乳が国家の乳柱やとでも思ってるんか、あんた」


「思っている。民草の乳頭に、国の礎がある」


「わからんこと言うな!!」


「いや、わからなくはないな……」


 と、ぽつり呟いたのは豆庶民、ノモ・バンだった。

 ひとくち、味噌汁をすする。


「だが豆の方が先や。豆乳。味噌。納豆。豆腐。枝豆。煮豆。揚げ豆腐。豆は万能。豆はすべてを包む」


 その静かな口調に、なぜか全員が一瞬沈黙した。


 豆が……強い?

 いや、強いというよりも、**“抗いようがない栄養”**として空気を変えてくる。


 そのとき。


「会議に戻りましょう」


 書類の束を持ち上げた声がした。

 総務公女アウローラ=クラウゼルである。


 短く、静かに、滑らかな口調。


 けれどその言葉には、全貴族の主張をいったん止めるだけの“格”があった。


 議事録担当の従者が慌てて筆を走らせる。


「……これより、《臨時王位承認会議》、本議題に入ります。議題:『新王選出に関する産業的基準』──なお参考資料として、本日朝提出された“各家の国家貢献度報告書”を配布します」


 全員の前に配られたのは、厚さ3センチはある報告資料の束。

 各家の主張・収支・雇用・治安貢献・物流・納税額──細かすぎるほどに記録されている。


 目を通した瞬間、魔道伯爵がフッと息を呑み、麦子爵が「おぉぅ……」と情けない声を漏らす。


 それは──**明確な数値化された“現実”**だった。


 全員が黙った。


 書類を読み上げるアウローラの指先だけが、静かにページをめくる音を響かせていた。




 会議室に、紙のめくれる音だけが響いていた。


 ザ……パサ……。

 次のページ。財務収支の中期比較。

 その次。外貨獲得比率。

 そのまた次。雇用創出効率指数。


 どの指標も、各家の“誇り”とはまるで関係なく、容赦なく現実を突きつけてくる。


「え、麦って……こんなに税金かかってるの……?」


 麦子爵が震える声で呟く。


 酒税、事故補償費、祭事出費、依存症対策費用──すべてが記録されていた。


「ちょ、ちょっとぉ! 酔っぱらって民が踊るのも文化じゃないですかぁ!」


「民の労働効率を0.4ポイント落としてる、と資料にありますが」


 アウローラは静かに答え、次の書類に手を伸ばす。


「そっちは酪農か……」


 狩猟侯爵が低く唸った。


 そこには、牛乳供給による栄養改善と並んで、

 「牧草地による国土過剰占有率」「堆肥処理問題」「牛の鳴き声による騒音苦情件数」などの記載が並んでいた。


「誰が訴えた!!」


 酪農公爵が咆哮したが、書類は事実だけを記している。


 次に読み上げられたのは、狩猟侯爵の産業報告。


 過去三年の狩猟許可件数の増加、それに伴う事故報告件数、弓矢の流通規制違反、解体施設の衛生問題、獣害の増加と逆効果になっている側面。


「ちょ、ちょっと待て、これは偶然……運が悪かっただけで──!」


「5年平均でも事故率は上昇傾向です。単年度ではありません」


 アウローラが一言添えると、侯爵の獣のような目がしぼんでいく。


「ぐぬ……!」


 次にめくられたのは、芋男爵。


 これは──意外にも安定していた。

 小作農支援、保存効率、低燃費、食糧危機時の実績など、数字は優秀。


 だが……


「……民の支持率が、微妙に足りません」


「せやな……」


 芋男爵はふかし芋を差し出しながら頷く。

 民は食べるが、感動しない。感動はパンや肉に持っていかれる。


 その横で、魔道伯爵は震えていた。


 魔術産業の収支表は、ほぼ赤字だった。


 維持費・研究費・魔導士養成費・塔の再建費用──全てが巨大で、利益はほぼゼロ。

 庶民への影響はわずか。魔法事故の補償費が逆に目立つ。


「こ、これは……投資だ……未来への、投資だ……」


「赤字を“投資”と呼ぶのは、国家経営ではありません」


 アウローラの声は冷たいが、決して責めるようではなかった。


 事実をただ事実として処理する──

 その姿勢が、かえって全員の心を抉っていた。


 ──そして、最後の書類。


「豆庶民・ノモ氏による“庶民生活基盤報告”」


 そこには──あらゆる食材の比較資料が並んでいた。


豆腐:製造コスト低/蛋白質効率高


味噌:発酵食・保存性高


大豆:年間安定供給/備蓄性最上


枝豆:夏祭り対応/アルコール消費補助あり


納豆:若干臭いが免疫活性あり



 その横には、びっしりと書き込まれた──


**「豆が足りない時代の苦しみ」**が、個人の記憶として綴られていた。


 読み終えた瞬間、誰もが言葉を失っていた。


「豆……って、そんなに……?」


 麦子爵が、震えながら味噌汁に手を伸ばす。


 ノモ・バンは微笑み、茶碗を差し出した。


 味噌の香りが、全員の心を静める。


 ──そして。


「以上を踏まえた上で、総務局より提案があります」


 アウローラは立ち上がった。


 手元の書類を一枚だけ取り出し、天井の光にかざす。


「本日より、王政は廃止とし、各産業を《帳簿管理制準王政》に再編。

 名代は当局が管理、実務は“予算通達”によって統括されます」


 言葉の意味を理解するのに、貴族たちは数秒を要した。


 ──帳簿が、王になる。




「……待て、今のはどういう……?」


 狩猟侯爵が、まだ状況を理解しきれずに、ゆっくりと立ち上がった。


「帳簿……というのは、あれか? 紙の束が王になるという意味か?」


「正確には、帳簿に基づいた予算配分権限を持つ“議事執行機関”が、新たな国家の意思決定機関となります」


 総務公女アウローラの声はあくまで淡々としていた。


「その上で、従来の王権機能は形式上維持されますが、実務・予算・人事・外交・戦略はすべて、“指標ベースの帳簿判断”を中心とした運用に切り替えます。

 従って、誰が王になるかという争点は、無意味になります」


「ふざけるな!!」


 酪農公爵リダンが、立ち上がって吼えた。


「人の上に立つ者は、筋骨と魂で選ばれるべきだ! 紙の束に民が従うとでも言うのか!」


 アウローラは、机にそっと手を置く。


「民が従うのは、“整った生活”です。

 秩序・予測可能性・生活の保障。紙はそれを保証します」


「絆じゃねぇのか! 肉を分け合い、獣を共に狩ってこそ、真の民との繋がりでは──!」


「事故率と衛生リスクが高すぎます。獣との共闘より、冷蔵流通網の方が安定します」


「ぐぬぬ……!」


 麦子爵が、震える手で報告書を読み直す。


「つまり……我々の役割は、帳簿の中の“項目”になるってことですかぁ?」


「すでになっています。すべての産業は、数値に基づいて記録済みです」


 魔道伯爵が、項垂れてぼそりと呟いた。


「塔の研究項目……廃止対象に入っているのか……?」


「再編成の提案があります。庶民向け教育、あるいは医療への応用を前提とするなら存続可能です」


「……うぅ、文明が……我が魔道の孤高が……!」


 そして、芋男爵。


「うちは……生き残るんか?」


「はい。国家備蓄用食材としては最上です。加工業への転用も可能。

 ただし、“もう少しロマンを加味してください”との評価もありました」


「……ロマンって、どないすりゃええねん……」


 しょんぼりと干し芋を見つめる男爵の背中に、麦子爵がそっとジャムを渡した。

「パンに合いますよぉ〜」


 一方で、潮風が再び吹いた。


 海産辺境伯マールが、静かに口を開く。


「……帳簿の波を読むのも、潮と同じことか」


「ええ。経済は、読めば動きます。感情ではなく、指標で」


「……なら、我は黙る。だが海は裏切らんぞ。海産予算は守れ」


「海産品は輸出項目としても優秀です。冷凍技術の支援を優先的に通しましょう」


 マールは深く頷き、無言で席に座り直した。


 そして最後に、味噌汁をすする音だけが響く。


 豆庶民ノモ・バンが、ふと呟いた。


「帳簿の王……か。

 結局、最後に生き残るのは“記録”ってことだな」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 気づけば、長卓の全員が──総務公女の前に沈黙していた。


 紙の音だけが、会議室を支配する。

 そして、それが王国の新しい“鼓動”となった。




 その日、王都に“王の死”は正式に発表された。


 そして同時に──

 「帳簿による国家運営機関の設立」が告知された。


 表向きは、「王政の移行に伴う行政補佐局の強化」とされている。

 だが、実質的には──王が帳簿に置き換えられた瞬間だった。


 その制度は“予算王政”と名づけられた。

 王は形式上残されたが、発言権・予算権・人事権はすべて“帳簿と数値”に委ねられる。

 法案も感情論も、提出時点で「費用対効果」が明示されなければ審議すらされない。


 国家の心臓が、静かな紙束へと移った。



---


 予算王政元年初日、

 総務局は新しい議事体制を発足させた。


 議長席にはもちろん、アウローラ=クラウゼル。

 その隣には、副議長として豆庶民ノモ・バンの名が入っている。


 庶民代表という枠組みすら超え、

 もはや「全産業の倫理的バランサー」としての地位を確立していた。



---


 一方で、旧来の貴族たちもまた、仕分けられた役割の中で新体制に組み込まれていく。



---


◉酪農公爵:リダン=ドゥーリッシュ


→《国家栄養政策局長》に就任。

発酵と栄養教育に特化した“乳の守護者”として、学校給食改革を推進。

「搾乳は、未来を搾る行為」との名言を残す。



---


◉魔道伯爵:アストル=アル=スヴェル


→《禁術管理機構・監査官》に転身。

塔の暴走を自ら統制し、「魔術とは社会制度である」と言い始めた。

最近は豆の発酵にも興味があるらしい。



---


◉芋男爵:クレイ=イモリス


→《農産資源調整官》。

地味に重要な役職となり、“腹の王”として国内の食糧備蓄を完全管理。

「腹が減ったら、芋を食え。政治はそれからや」



---


◉麦子爵:アリエス=フィレール


→《文化振興部パン祭事課 課長》。

ユルさはそのままに、年間60回以上のパン祭りを監督する“ふわふわの裏ボス”。

酒税改革案は通らなかったが、パン職人たちの支持は絶大。



---


◉狩猟侯爵:ラグド=ヴァルハイン


→《野外資源管理局/肉の分配部門》責任者。

「肉を配れ」と叫ぶ姿はそのままだが、全ては帳簿の許可が下りてから。

悔し涙を流しながら、表計算を覚えた。



---


◉海産辺境伯:マール=ヴェルノン


→《対外交易港湾庁長官》。

魚の冷凍と塩蔵技術の革新で外貨を稼ぎ、“しょっぱい総合力”を発揮中。

黙ってるだけで輸出額が増える。



---


 そして、そんな全員を束ねるのは──もちろん、アウローラ。


 今日も彼女は静かに、誰よりも早く登庁し、

 一番厚い帳簿に、ペンを走らせていた。



---


 その姿は誰にも注目されない。

 だが、国家そのものの軸が、彼女の静かな動作を中心に回っている。


 政争は終わった。

 権威は消えた。

 残ったのは、数字と現実と、豆と芋と味噌汁だった。




 予算王政が始まってから、王都では奇妙なことが起きた。


 まず、怒鳴り声が消えた。


 路地裏の喧嘩も、貴族会議の怒号も、酒場の暴力沙汰も、

 みんな何かを言い出す前に、**「帳簿にどう書くか」**を考えるようになったからだ。


 そして──


 総務局に提出される書類のフォーマットが異様に整い、字が綺麗になった。


 農民は“支援申請書”の練習をし、パン屋は“祭事補助予算”を申請し、漁師は“冷凍設備費の稟議書”を手書きで書いた。

 町の文房具店は空前の“帳票バブル”となり、ペンとインクがよく売れた。


 もはや民は、紙とインクで国家と対話するようになっていた。



---


 そんなある日のこと。


 会議室の隅、薄暗い資料庫のなかで、ひとつの小さなやり取りがあった。


「アウローラさま……」

 豆庶民ノモ・バンが、おずおずと手に豆の小袋を差し出した。


「これ、去年の収穫祭でできた特別なやつです。

 味噌にしたら、きっと美味い」


 アウローラは少しだけ首をかしげ、それを受け取った。


 そして──珍しく、ほんのわずかに、微笑んだ。


 その笑顔を見て、ノモは思った。


 ああ、この国はもう大丈夫だ。


 肉も、魚も、芋も、麦も、魔法も、乳も──

 みんな、帳簿の中で整列し、うまく回っている。


 そして、その帳簿を操るのは、

 言葉少なく、派手さもなく、ただ一つひとつを静かに見つめているこの女性だ。



---


 かつて王がいた場所に、

 いまは紙と静寂と味噌汁の香りがある。


 誰も怒らない国。

 争いの代わりに、申請と再計算がある国。

 その中心にいるのは──最も目立たない、公女だった。




──総務公女、最強でした。


派手な魔法も、血湧き肉躍る戦闘もないこの物語。

なのに、なぜか読み終えたとき「めちゃくちゃスカッとする」……

それこそが本作最大の“ざまぁ”ポイントです。


彼女は何も叫ばず、殴らず、魔法も使わず。

ただ静かに帳簿をめくるだけ。

けれど、【それが最も誰にも逆らえない“事実の力】でした。


本作を読んで少しでも笑っていただけたなら、

それはきっと、「豆と帳簿と静かな力」が、あなたの中でも働いた証です。


読了、ありがとうございました。


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