99 ジェイミーとの対話
かなりハードな剣術の授業を終えて、僕達は更衣室へと向かった。
道すがらアーサーにジェイミーの事を話そうと思ったのだが、何故かピッタリと僕達の後ろをジェイミーがついてくる。
こんなに近くにいたんじゃ、話題にする事も出来ない。
仕方なく僕は今のヴィクター先生の授業について話す事にした。
「はぁ、疲れたね。あんなにハードな授業だとは思わなかったよ」
僕がわざとらしくため息をついてみせると、アーサーもコクコクと頷いた。
「まったくだよ。普段走ったりしないから、いかに体力が無いか思い知らされた感じかな」
「それにしてもベアトリス先生はカッコ良すぎだろう。大半の女子生徒の目がハートになってたよね」
「それを言うならヴィクター先生もじゃないかな? 食堂で会った時とは全然イメージが違ったよ」
アーサーがヴィクター先生を褒めるので、僕は妙に背中がこそばゆい感じになった。
今はエルフとはいえ、元々は人間で現在の僕のご先祖様にあたる人だ。
それを公言出来ない以上、どう話に乗っかって良いのかわからない。
とりあえず「そうだね」と言葉を濁しておく。
すると、突然アーサーがクルリと後ろを振り返った。
僕達のすぐ後ろを歩いていたジェイミーは咄嗟にビクッと身体を仰け反らせる。
「ジェイミー君、さっきから僕達の後を尾けてくるなんてどういう了見だい?」
アーサーの追及に一瞬たじろいだジェイミーだったが、すぐに首を振って否定する。
「何を言っているんだ? 戻る方向が同じなんだから、たまたま僕の前を君達が歩いているだけじゃないか」
アーサーはジェイミーの返事をすぐには鵜呑みにしなかったが、実際行く方向は同じなのでジェイミーの言葉を完全には否定出来ない。
「納得してくれたかな? それじゃ僕は先に行かせてもらうよ」
ジェイミーはそう言うと僕達を追い抜いてさっさと更衣室の方へ歩いていった。
「…どう見ても僕達の後を尾けていたとしか思えないんだけどな」
ジェイミーの後ろ姿を見送りながらアーサーが肩をすくめてみせる。
「どう見たって僕達の後を尾けていたに決まっているのにな」
ジェイミーが居なくなった事で僕はようやく先ほどのランニングの時の事をアーサーに打ち明けた。
「実はさっきのランニングの時も僕の後をついて走っていたんだよ。何か僕に話でもあったのかな?」
だけど、アーサーはそれを否定した。
「どう見てもエドに話があったようには見えないな。それにエドと友達になりたかったのなら僕に遠慮せずに話しかけてくるはずだろ? あんなふうにコソコソ後を尾けてくるなんてあり得ないよ」
アーサーは「うーん」と考え込んでいたが、突然何か思いついたようにポンと手を打った。
「あ! そうか! きっとエドが計算のテストで満点を取ったからだ!」
え?
テストで満点を取ったから?
一体どういう事だろう?
「きっとジェイミーはエドが何か不正をしたと思っているんだ。だからその証拠を掴もうと思っているんじゃないかな?」
「ええ? 不正なんてしてないよ」
「僕だってそれはわかっているよ。だけど、ジェイミーはエドに前世の知識があるなんて知らないだろ? だから何か不正があったんじゃないかと疑っているんだよ」
アーサーはそう言って、自分で納得しているけれど、僕には迷惑な話でしかない。
「不正なんてしていないのにな。後でジェイミーと話をするべきかな?」
アーサーに聞いてみたけれど、アーサーはそんな僕の考えを否定する。
「やめとけよ。ジェイミーが『はい、そうです』なんて認めるわけがないし、むしろ逆に余計に疑われかねないぞ」
アーサーに諭されて「それもそうか」と渋々頷いた。
だけど、このままジェイミーにストーカーされ続けるのも問題だよね。
僕は軽くため息をつきながら更衣室に入った。




