97 決意(ジェイミー視点)
ディクソン先生の含みのある言い方を受けて、当然生徒達は色めき立つ。
「ある方って誰ですか?」
「その人はどうしてこういう計算式を考えついたんですか?」
生徒達の勢いに少したじろいだ様子を見せたディクソン先生だったが、すぐに気を取り直してパンパンと手を叩いた。
「お静かに! その質問に関しては答えかねます。それよりもこの計算方法を習得するのが先です。問題を出しますから各自ノートに書いて計算してください」
ディクソン先生は黒板に足し算引き算の問題を数問書き出した。
「えーっ!」と、不満そうな声を上げていた生徒達だったが、すぐにペンを持ってノートに書き写し出した。
問題を書き写したはしから計算を始めていく。
足し算引き算なので、誰もが簡単に計算を終えたようだ。
「出来ましたか? それでは名前を呼ばれた人は前に出て計算してください」
ディクソン先生に名前をよはまれた生徒達が教壇へと向かう。
そこに書かれた問題を各自で、解き始める。
足し算引き算なので、誰もが難なく答えを書いていく。
黒板に書かれた答えを見てディクソン先生は満足そうに頷く。
「足し算引き算は大丈夫なようですね。それでは掛け算について、この計算方法で計算してみましょう」
ディクソン先生の声が高らかに告げる。
僕にとっては小学生の授業を受けているようなものだ。
初めて習う事ならいざ知らず、既に知っている事を授業で受けるなんて拷問でしかない。
こんな事なら選択授業に入れなきゃ良かったかな?
そんな後悔をしつつ、僕は授業を受けていた。
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ジェイミーは計算の小テストの答案用紙を受け取り、点数を見て愕然とした。
『どうして僕が、こんな点数を…』
間違えていても一問ぐらいだろうと思っていたのにまさかの七十五点とは予想外だった。
『こんなテスト、誰にも見せられない…』
ジェイミーはそのテストは両親に見せまいと決めた。
『…それにしても…』
ジェイミーはチラリとエドアルドに視線を向ける。
『一人だけ満点だと? ふざけやがって! 男爵のくせに!』
ジェイミーは自分より格下である男爵家のエドアルドの方が成績が良いのが気に入らなかった。
ダサい黒縁のメガネをかけて、前髪も半分目を隠すように伸ばしている。
そもそも男爵家も養子で入っているらしく、どこの馬の骨ともわからないような人間だ。
そんな奴がジェイミーよりも成績が良いなんて到底認められるわけがなかった。
今でこそ、子爵という立場ではあるが、元々は侯爵という爵位を賜っていたのだ。
何が何でも自分が家督を継ぐ時にはぜひとも侯爵という立場に返り咲いていたい。
そのためには何としても学院で優秀な成績を上げてエドワード王子の側近に加えてもらわなければならない。
そんなジェイミーの前に立ちはだかっているのが、身元のはっきりしないエドアルドだった。
『…絶対に何か裏があるに違いない』
昨日の昼食でもマーリン先生がわざわざエドアルド達と同じ席についていた。
その前の魔法の授業でエドアルドの時に眩い光が放たれたように見えた。
『魔導具の故障』だとか、言い訳をしていたが、あの時マーリン先生に何か気に入られるような事をしたに違いない。
昨日の放課後も、今朝の最初の授業の時もディクソン先生と何やらコソコソと話をしていたようだ。
養子先のエルガー家にしても、正式な跡取りが生まれたにもかかわらず、いまだにエドアルドを追い出さずにいる。
『きっと、何かしらの術で大人達を操っているに違いない。それを暴いてやれば、皆僕に感謝するに決まっている。今に見てろよ。絶対に化けの皮を剥いでやるからな』
ジェイミーは密かに心に誓うのだった。




