76 魔法の話
「本日はこれで終了となります。気を付けてお帰りください」
ディクソン先生が教室を出ていき、僕達は解散となった。
すぐに教室を出て行く生徒もいたが、数人の生徒が僕の周りにわっと集まってきた。
「やっぱりエドアルド君だったんだね。眼鏡をかけてたからすぐにはわからなかったよ」
「びっくりしましたわ。まさか、そんなに目が悪かったなんて知りませんでしたわ」
そう声をかけてきたのはお茶会で何度か顔を合わせている人達だった。
「あはは、まあね」
笑ってごまかしていると、彼等の横からヒョイとアーサーが顔を出した。
「エド、馬車に乗って帰るんだろう? 一緒に行こう」
「ああ、そうだね。…それじゃ」
渡りに船、とばかりに僕は立ち上がると彼等に別れを告げて、アーサーと一緒に教室を出た。
まさか、彼等にそこまで驚かれるとは思っていなかったのだ。
「助かったよ、アーサー」
「多分、エドが困っているだろうと思ったからね。あんなふうに皆に質問されると思っていなかったのかい?」
「うん、まあね」
「やれやれ、自覚が足りないな。お茶会で何人かの女の子がエドに熱い視線を送っていたのに気づいていなかったとはね」
「え? 嘘だろ? 大体、僕は養子だよ」
「別に今すぐ結婚するわけじゃないからさ。ただ単にエドに憧れている子がいるって事だよ」
アーサーにそう言われても僕にはいまいちピンとこなかった。
お茶会で会う女の子達をそんな目で見た事はなかったし、ましてや自分がそんな目で見られているとは思わなかったからだ。
そんな話をしているうちに馬車乗り場に到着した。
馬車に乗り、学院を出発する。
「明日はきっと、魔力検査があると思うんだ。兄上みたいに僕も魔力があるといいな」
アーサーの言葉に僕は少し疑問を持った。
「魔力検査をしないと魔力があるかどうかはわからないのかい?」
「そうだよ。学院で魔力検査をしてもらって、それから魔法の使い方を教わらないと使えないんだ。エドだって魔法はまだ使えないだろう?」
「え…うん、そうだね…」
まさか、以前魔法を使った事があるとは言えなくなってしまった。
あの時、エミーも僕が魔法を使った事には特に何も言わなかったからだ。
義両親にも魔法を使った事は言わなかったが、今となっては言わなくて正解だったと思う。
あの時打ち明けていたら、きっと大騒ぎになっていただろう。
それにしても、魔力検査をしてもらわないと使えないはずの魔法をどうして僕は使えたんだろう?
もしかして転生した事への異世界チートというやつだろうか?
それとも、王子として生まれたから、元から持っている能力なんだろうか?
考えたところで答えなんか出てくるわけがない。
そのうちに馬車が停まって扉が開いた。
アーサーと一緒に馬車から降りると、エミーが迎えに来ていた。
「お帰りなさいませ、エドアルド様」
「ただいま、エミー」
アーサーも従者に出迎えられている。
「じゃ、また明日な。エド」
「じゃあね、アーサー」
アーサー達と別れて僕とエミーはエルガー家へと戻っていく。
「ねぇ、エミー。魔法って誰でも使えるものじゃないの?」
「そうですね。私も含め平民は魔法が使えない人がほとんどですからね」
「そうなんだ…」
エミーは魔法が使えないから、魔法を使う手順がある事を知らなかったようだ。
後で義母様達に魔法について質問してみようか。
勿論、僕が魔法を使える事は言わないでおこう。
これだけは義両親に知られてはいけないと確信した。




