63 打ち明け話
ぐるぐると頭の中で考えを巡らせるけれど、上手い言い訳が出て来ない。
目をあちこちに彷徨わせる僕をアーサーはじっと見つめてくる。
アーサーの顔は『話すまで何が何でも帰さない』と言っているようだ。
もうこうなったらアーサーに本当の事を話すしかないのだろうか?
チャールズとの事は話しても僕が捨てられた王子だとは言いたくはない。
ここはやはり他の子と間違えられたと押し通す事にしよう。
そして前世の記憶があるからポップコーンを作る事が出来たとすればいい。
僕はそれだけをアーサーに打ち明ける事にした。
「アーサーも僕が養子だと知っているよね。先日、君の家の名を騙った人に連れ出されたのもそれが関係しているんだ」
そう切り出すと、アーサーは戸惑いつつも頷いてみせる。
「どうも、その人が探している子供が孤児院に連れて行かれたらしくて、僕と年も変わらないらしいから、その子供に間違えられたらしいんだ」
「うん、それで?」
「だけど、結局勘違いだとわかって、いざ帰ろうとした時に突然、前世の記憶を思い出したんだ」
「…はあ? 前世の記憶?」
アーサーが素っ頓狂な声をあげる。
そりゃ、まあ、突然そんな事を言われればそんな反応になるよね。
そんなアーサーを他所に僕は更に話を進める。
「その家にあったとうもろこしが前世で『ポップコーン』というお菓子になる品種だったから、迷惑をかけられたお詫びとしてポップコーンを作らせてもらったんだ。その時に作ったポップコーンがこのキャラメル味なんだよ」
そう言ってニッコリ微笑んで見せたけど、アーサーは相変わらず不可解そうな表情をしている。
まあ、突然『前世の記憶を思い出した』なんて荒唐無稽な話を聞かされても、すぐには対処出来ないよね。
そのうちにアーサーはテーブルに頭を突っ伏してしまった。
「えっと、アーサー?」
恐る恐るアーサーに声をかけると、しばらくしてようやくアーサーは顔を上げた。
「ごめん。エドアルドの話をどこまで信じて良いのかわからなくなっちゃった。…でも、本当に前世の記憶があるの?」
半信半疑なアーサーに僕は手近にあったポップコーンのチラシを手に取った。
長方形の形のその紙を縦長に半分に折り、折り目を付ける。
その折り目に向かって四隅を三角に折り曲げ、長辺を半分に折り、折り目に沿って半分に折る。
一旦開いて潰すように折り曲げ、反対側も同様に折り、半分にする。
いわゆる紙鉄砲の出来上がりだ。
僕が折っているのをアーサーは目を丸くして見ている。
出来上がった紙鉄砲を勢いよく振ると「パンッ」と音がした。
「ええっ!」
アーサーが驚くと同時に扉がバンッと開いて廊下にいたメイドが入ってきた。
「今の音は何ですか! アーサー様! エドアルド様! ご無事ですか!」
ありゃ。
ちょっと作る物を間違えたかな?
「大丈夫だよ。今、エドアルドが面白い物を作ってくれたんだ。何でもないから向こうに行ってていいよ」
アーサーは入ってきたメイドをさっさと追い出すと、僕にキラキラした目を向けてくる。
「何、これ。もう一回やってよ」
僕は広がった紙鉄砲をもう一度折り直し、再び勢いよく振り下ろしてみせる。
「バンッ」
またもや紙鉄砲は小気味いい音を立てて鳴る。
「これは折り紙って言うんだ。前世でやっていた遊びだよ」
「へぇ、凄い。僕にもやらせてよ」
僕はアーサーに紙鉄砲を渡して、持ち方を教える。
アーサーは僕がやった通りに勢いよく紙鉄砲を振り下ろす。
「バンッ」
アーサーは自分が紙鉄砲を鳴らす事が出来て満足そうに笑っている。
「こんな遊びなんて誰も知らないよね。…そうなると、エドアルドに前世の記憶があるっていうのは本当の事なんだね」
アーサーは自分の手に握っている紙鉄砲を見てしみじみと呟いている。
「アーサー、この事は誰にも言わないでくれる? アーサーにしか打ち明けていないんだ」
そうお願いすると、アーサーは力強く頷いた。
「僕達だけの秘密だね。約束するよ」
それを聞いて僕はホッと胸を撫でおろす。
やれやれ、これで一件落着…かな?




