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60 謁見

 チャールズは緊張した面持ちで王宮の待合室にいた。


 ここは国王夫妻に謁見する者達が待機するための場所だ。


 チャールズ以外にも数人の貴族や商人が、自分の版が来るのを今か今かと待っている。


 今までチャールズは国王夫妻への謁見理由を『爵位についてのお願い』としていたため、ことごとく却下されていた。


 だが、今回の謁見理由は『新商品の献上』である。


 エドアルドに教えてもらったポップコーンを売るため、この一カ月間のあいだに商会を立ち上げ販売店舗の確保をした。


 そして国王夫妻への謁見の申し込みをして、ようやく許可が下りたのだ。


 本日、ポップコーンを国王夫妻に献上した後、ポップコーンを販売する予定になっている。


 次から次へと名前が呼ばれ、ようやくチャールズの番が回ってきた。


 チャールズはポップコーンが入った箱を持った従者を従えて、待合室から謁見室へと足を進めた。


 謁見室に入ると、奥の玉座に国王と王妃が並んで座っている。


 チャールズは玉座へと続いている赤い絨毯の上を歩き、所定の位置で足を止めて跪いた。


 チラリと見えたフィリップの顔は、やはりエドアルドに似ていた。


「スタンレイ子爵。本日は新商品を持って来たとの事だが、何を持ってきたのだ?」


 国王であるフィリップに声をかけられ、チャールズは更に頭を下げる。


「はい。先日、新しいお菓子を開発いたしまして、真っ先に国王陛下と王妃様に献上しようと持ってまいりました。どうぞお納めくださいませ」


 チャールズは後ろに控える従者から箱を受け取ると、恭しく頭上に掲げた。


 玉座の下に待機している従僕がチャールズの掲げた箱を受け取り、フィリップの元へと運ぶ。


 フィリップはその箱を一瞥した後、従僕に箱を開けさせた。


 その中には数種類のポップコーンが詰められている。


「ほう。初めて見る菓子だな。一つ食べてみせろ」


 フィリップは従僕にポップコーンを食べるように命じる。


 これは万が一、毒が盛られている可能性を考えての事だ。


「はっ、かしこまりました」


 従僕はポップコーンを一つ掴むと、物珍しげに眺めた後、自分の口に入れた。


 ポップコーンを噛んだ瞬間、従僕の目が見開かれる。


 その様子をフィリップは見逃さなかった。


「どうした? まさか、毒でも入っていたのではあるまいな?」


 フィリップの言葉に従僕はブルブルと首を振る。


「とんでもございません! とても美味しいお菓子です。外側はカリッとしているのに中は柔らかくて初めて食べる物です」


 従僕の言葉にフィリップは食べても安全だと理解したらしく、ポップコーンを一つ取り口に入れた。


 しばらく咀嚼した後、フィリップは別のフレーバーのポップコーンを口に入れる。


「これはまた、別の味がするな。ん? こっちはまた刺激的な味だな。もしかして『カレー』というやつか?」


 次から次へとポップコーンを頬張るフィリップに、リリベットが抗議の声を上げる。


「まあ、陛下! お一人で楽しんでいらっしゃらないで、私にも食べさせてくださいな」


 リリベットの声を受けて、従僕が慌ててリリベットの前に箱を差し出した。


 リリベットはポップコーンを摘むと、ためらいもなく口に入れて咀嚼する。


「あら、これはチョコレートの味がするわね。こちらは甘いけれど何の味かしら?」


「そちらはキャラメル味と申します」


 チャールズがポップコーンのフレーバーの説明をするが、その間にも二人の手は止まらない。


 従僕はポップコーンの箱を抱えてフィリップとリリベットの間をウロウロする羽目になっていた。


 ほぼ箱が空になってきた所でようやく二人の手が止まった。


「なかなか美味しかったな。これはいつから販売するんだ?」


「はい、本日より販売開始となります」


「そうか、後で買いに向かわせよう。大義であった。下がっていいぞ」


 フィリップに言われ、チャールズはペコリと頭を下げて出口に向かう。


 その背中にフィリップの言葉が追いかけてきた。


「ああ、言い忘れておった。お礼と言ってはなんだが、次の陞爵の候補に加えておくからな」


 チャールズは思わず叫びだしそうになるのをぐっと我慢して、もう一度深々とお辞儀をすると謁見室を出た。





 

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