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46 二回目の稽古

 翌日から僕は屋敷の周囲を走る事を日課に入れた。


 義父様も義母様も門から外に出なければ走っても良いと許可をくれた。


 屋敷を一周するのなんて簡単だと思っていたが、これが結構運動不足の僕にはきつかった。


 いや、だいたいこの屋敷が広すぎるんだよ。


 男爵の身分でこれだけの屋敷を持っているんなら、もっと上の爵位の人はどれだけの土地を所有しているんだろう?


 そういえばお茶会で訪れたテイラー伯爵家だってほんの一部しか見ていないけれど、かなり大きなお屋敷だったもんね。


 上には上がいるって事だね。


 アンソニーさんは週二回僕に剣を教えてくれる事になった。


 二回目に来てくれた時には約束してくれたとおり、本物の剣を持ってきてくれた。


「これが今、私が使っている剣です」


 そう言ってアンソニーさんは腰に下げた剣を鞘からズラリと抜いて見せてくれた。


「うわぁー」 


 本物の剣の迫力に僕はドキドキする。


 前世でも日本刀を見た事はあるが、それは博物館に展示されてあるものでガラス越しにしか見られなかった。


 あの『ただの展示品』にしか見えなかった日本刀よりは、今目の前にあって触れる事が出来る剣の方が格段上だ。


「持ってみますか?」 


 アンソニーさんに聞かれて僕は満面の笑みでコクコクと頷く。


 アンソニーさんの口から「フッ」と漏れたけれど、表情は相変わらず変わっていない。


 それでも笑ったらしい事は何となく感じられた。


「こちらの柄を両手で握ってください。くれぐれも刃を触らないように…」


 アンソニーさんが僕の方に柄を差し出してくれる。


 僕が両手で柄を握ると、アンソニーさんがゆっくりと手を離した。


 アンソニーさんが手を離すと剣の重さがズシリと僕の手に伝わってくる。


 思っていたよりも軽いけれど、いざこれを振り回して敵と戦うとなると相当な体力がいるだろう。


 僕にはまだまだ扱える代物ではない。


「凄いですね。でも、僕にはまだまだ持つのは早そうです」


「木剣に慣れたら次は子供用の模造剣を持って来ましょう。何事も順序というものがありますからね」


「はい」


 アンソニーさんは僕の手から剣を受け取ると、鞘の中に収めた。


 稽古を終えた頃に義母様が僕達の所にやって来た。


「お疲れ様。喉が渇いたでしょう? 一緒にお茶にしましょう」


 そう告げると義母様は先に屋敷の中へと戻っていく。


 その義母様を見送るアンソニーの目がやけに優しげに見えるのは僕の気の所為だろうか?


 もしかしてアンソニーさんって義母様の事が好きなのかな?


 義父様とも幼なじみって言っていたから、もしかしたらよくある三角関係だったのかな?


 でも、実際に義母様を取り合ったのなら、今こんな風に何のわだかまりもなく接する事は出来ないと思うから、アンソニーさんの気持ちは義父様も義母様も知らない?事なのかもしれない。


 僕だって今更そんな話を持ち出して三人の関係を壊したくはないので黙っておく。


 それにはっきりそうだと決まっているわけではない。


 僕が受けた印象だけで、本当は違うかもしれないからだ。


 三人には三人で築いてきた関係があるんだから、部外者がどうこう言う事じゃないよね。


 義母様の後について屋敷の中に入ると、サンルームにお茶の用意がしてあった。


 そこのベビーベッドにクリスが寝かされている。


 アンソニーさんがベッドの中を覗き込むと、クリスは初めて見る顔にキョトンとしていた。


「こちらがクリス様ですか。どちらかと言うとセレナ様によく似ていらっしゃいますね」


「あら、アンソニーもそう思う? でもあんまりそれを言うとダニエルがむくれるから黙っておいてね」


 クスクスと笑う義母様にアンソニーは生真面目な顔で頷いている。


 うーん。


 やっぱりさっきの優しげな視線は僕の勘違いなのかな?




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