表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/167

43 回顧

「…は?」


 予想外の名前が出てきた事にスタンレイ子爵は間の抜けた返事をしてしまう。


(エルガー男爵家だと!? まさか貴族の養子になっていたとは…)


 驚きを隠しながらスタンレイ子爵は院長に笑顔を向ける。


「教えていただきありがとうございます。まさか貴族の方の養子になっているとは思いませんでした。こちらは教えていただいた謝礼です」


 スタンレイ子爵はポケットから財布を取り出すと金貨を十枚、テーブルの上に重ねた。


 その金貨を見た院長の目がキラリと光る。


(あの財布の中にはまだ金貨が入っていそうだな。もう少しふっかけても良かったか?)


 そう思いながらもゆっくりとした動作で金貨を手に取ると、枚数を数える。


「十枚確かにありますね。ところで、これからどうなさるおつもりですか?」


 院長に尋ねられ、スタンレイ子爵は困ったような表情を見せる。


「会っていただけるかどうかはわかりませんが、まずはエルガー男爵家に面会を申し込みます。後は向こうとの交渉次第でしょうか? まだはっきりと私の孫だと確定したわけではありませんからね」


 スタンレイ子爵は立ち上がると院長に軽く頭を下げた。


「ご協力感謝いたします。それではこれで…」


 スタンレイ子爵は院長の返事も待たずに院長室から出て行った。


 院長は閉まった扉の向こうから足音が遠ざかっていくのを聞いていた。


(随分と急いでいるな。やはりエドアルドがあの男の孫なのだろう。それにしても最後にこれだけ儲けさせてもらえるとはな)


 院長はテーブルの上に積まれた金貨を手に取った。


 ジャラジャラと金属音が鳴り、その音とキラキラした黄金色が院長の心を高揚させる。


 勿論、このお金が孤児のために使われる事はない。


 院長はホクホク顔で金貨を仕舞い込むのだった。






 院長室を出たスタンレイ子爵はゆっくりとした足取りで歩き出したが、次第にそのスピードが上がっているのには気づいていなかった。


 エルガー男爵家は前回の御家騒動の時には中立を貫いていた。


 スタンレイ子爵家との交流はほとんど無いにも等しい。


(まさか、エルガー男爵家の所に養子に行っているとは…。待てよ? あそこは最近子供が生まれたんじゃなかったか?)


 足早に馬車の所に戻りながら、スタンレイ子爵はエルガー男爵家の噂を思い返していた。


 スタンレイ子爵の妻と長男の嫁とでそんな話を話題にしていたような記憶がある。


 スタンレイ子爵は特にそんな話には興味がなかったので聞き流していた事が今になって悔やまれる。


(何と言っていたかな? …確か…高齢出産とか…)


 スタンレイ子爵は必死にその時の話を思い出そうとしていた。


 あの時は長男の嫁の方から切り出した話だったはずだ。


『お義母様、お聞きになりました? エルガー男爵家のセレナ様がご懐妊なさったそうですよ』


『セレナ様? 確かあなたより年上じゃなかったかしら?』


『そうです。しかも今回が初めてのご懐妊だそうで…』


『まあ! 無事に出産出来るのかしら?』


『お義母様もそう思われます? 子供が生まれないから養子を貰ったと聞いたのに、今頃になってご懐妊なんてねぇ』


『本当にねぇ。もっと早くご懐妊していれば、養子なんて貰わずに済んだのにねぇ』


『世の中がままならないって言うのは本当ですわね。…そういえば…』


 二人の会話はそこから別の話に移っていった。


(よくもまあ、それだけ色んな噂話が出来るものだ)


 スタンレイ子爵は二人の会話を聞きながら思わず苦笑を漏らしていた。


 その時の話が今ここに繋がっているとは…。


(戻ったら妻にエルガー男爵家の養子の話を詳しく聞かないとな) 


 スタンレイ子爵は馬車に飛び乗ると一目散に屋敷に戻るように命じた。


(まずはエドアルド様に会ってみないとな)


 スタンレイ子爵は屋敷に戻りながらどうやってエドアルドと接触するべきか、考えを巡らせるのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ