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40 お客様

 馬車がエルガー男爵家の玄関先で停まると、御者が扉を開いた。


「サヴァンナ様。今日はありがとうございました」


 僕はサヴァンナ様にペコリと頭を下げると馬車から降りた。


「エドアルド、またね」


 振り返った僕にアーサーが声をかけてくる。


「またね、アーサー」


 僕が手を振ると、御者は扉を閉めて御者台に戻り、馬車を出発させる。


 馬車がエルガー家の門を出るまで見送った僕は、出迎えてくれたメイドと一緒に屋敷の中に入る。


「エドアルド様。ティモシー様がいらしておられるので挨拶に連れてくるようにと奥様から言いつかっております」


 そう言ってメイドは僕の部屋ではなく応接室へと僕を誘導していく。


「ティモシー叔父様が?」


 義母様の弟で、現在は義母様の実家のフォスター子爵家の家督を継いでいる人だ。


 義母様の出産のお祝いに訪れたんだろうけれど、僕としては先日のウィリアム叔父様の訪問が思い出されて仕方がない。

 

「奥様、エドアルド様をお連れしました」


 ノックの後にメイドが告げると「通してちょうだい」と義母様の返事が聞こえた。


 メイドが開けてくれた扉から応接室に入ると、ソファーに座ったままのティモシー叔父様が軽く手を挙げた。


「エドアルド。お茶会から帰ったばかりなのにごめんなさいね」


 クリスを抱っこしている義母様が僕に謝ってくる。


「大丈夫です、義母様」


 僕は応接室に入ると、ティモシー叔父様の所へ近寄っていった。


「ティモシー叔父様、ようこそいらっしゃいました。ご無沙汰しております」


 ペコッと頭を下げると、ティモシー叔父様は母様によく似た笑顔を向けてくる。


「久しぶり、エドアルド。お茶会だったんだって? 何処のお屋敷に行ってたんだい?」


「今日はテイラー伯爵家です」


 そう答えると、ティモシー叔父様は「ああ」と軽く頷いた。


 ティモシー叔父様がその後を続けようとしたところで、「おぎゃあ、おぎゃあ」とクリスが泣き出した。


「あらあら、どうしたのかしら?」


 義母様がクリスをあやすが、一向に泣き止まない。


 お腹が空いたか、オムツが濡れたかはわからないが、どちらにしてもティモシー叔父様の前では対処できないだろう。


「ごめんなさい、ティモシー。ちょっと席を外すわね」


 義母様はそう断ると、クリスを連れて応接室を出て行った。


 応接室には僕とティモシー叔父様だけが取り残されてしまう。


 ほんの少しの沈黙の後、ティモシー叔父様が僕に向かって手招きをしてくる。


 何だろう? と思いながら近寄っていくと、ティモシー叔父様は僕の耳に囁いてくる。


「エドアルドはエルガー男爵家を継ぐ気があるのかい?」


「え?」 


 予想外の言葉に僕は思わずティモシー叔父様の顔を凝視してしまう。


「あれ? そんなに驚く事を言ったかな? 正式に養子縁組をしているんだから、跡を継ぐ権利はあるよね」


 確かにそのとおりだけれど、既に義父様からはクリスに跡を継がせると伝えられている。


「いえ。既に義父様にはクリスが跡を継ぐと言われてます」


 そう告げるとティモシー叔父様は探るようにじっと僕の目を見つめてくる。


「エドアルドはそれでいいのかい? エドアルドがこの家を継ぎたいんなら協力してやってもいいんだよ?」


 ティモシー叔父様はそう言ってくるけれど、その言葉の裏には何か隠されていそうで素直に頷けない。


 僕はブンブンと首を横に振って、ティモシー叔父様の誘いを断る。


「いいえ! 義父様にはクリスの兄としてこの家にいてほしいと言われました。僕にはそれだけで十分です!」


 そう言い切ると、ティモシー叔父様は苦々しい顔で僕を睨みつけてくる。


 その顔を見て僕はティモシー叔父様の真意を悟った。


 おそらく僕に『家督がほしい』と言わせて、義両親に『僕が家督を狙っている』と告げ口をするつもりだったのだろう。


 なおもティモシー叔父様が何か言おうとしたところで義母様が戻ってきた。


「ごめんなさいね、ほったらかしにして…。クリスは向こうに置いてきたわ」


 そう言いながらソファーに座った義母様は、僕達の微妙な空気に首を傾げる。


「あら? 二人で何の話をしてたのかしら?」


「今日のお茶会について聞かれていました。義母様が戻ったので僕はこれで失礼しますね」


 僕はこれ幸いとばかりに暇を告げると、さっさと応接室から出て行った。







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