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4 サラの行動

 サラは生まれたばかりのエドアルドを連れて王妃の部屋を出ると、そのままリネン室へ向かった。


 ここには王宮内で使うタオルやシーツ等が置かれている。


 一旦、エドアルドを台の上に寝かせると、サラは目当ての物を探してあちこちひっ掻き回した。


「このくらいの大きさで大丈夫かしら?」


 サラは籠と数枚のタオルを手にしてエドアルドの所へ戻る。


 エドアルドが入るくらいの大きさの籠にタオルを敷き詰めると、その中にエドアルドを寝かせた。


 エドアルドは真っ直ぐな目でサラを見つめている。


 その視線を受けてサラの心がツキリと痛むが、王の命令に逆らう事は出来ない。


「エドアルド様。どうかお許しください」


 サラはそう呟くと籠全体を大きなタオルで覆った。


 これでこの籠いっぱいにタオルが入っているように見える筈だ。


 まさかこの中に赤ん坊がいるなんて誰も夢にも思わないだろう。


 サラはその籠を抱えると王宮の通用門の方に向かった。


 ここにも当然見張りの門番がいるが、侍女長のサラとは顔馴染みである。


 それでも、普段とは違う時間帯に現れたサラに門番は怪訝な顔を見せる。


「侍女長、こんな遅くにどうされました?」


「実家の父の具合が悪いと連絡がありました。しばらく実家に戻ります」


「それは大変ですね。気をつけてお帰りください」


 サラの作り話を真に受けた門番は特に疑う事もなく通してくれた。


 サラはそのまま徒歩で王都にある自分の実家を目指した。


 今でこそ子爵の身分だが、その昔は膨大な領地を有していた侯爵家だった。


 だが、双子の王子の継承権争いで失脚した兄王子を支持していたため、当主の侯爵は処刑され、子爵へと降爵させられたのだった。


 所有していた領地も没収され、残ったのは王都にあるこじんまりとした屋敷だけとなった。


 それ以来最低限の使用人しか雇う事が出来ず、細々とした暮らしを強いられている。


 サラが王宮の侍女長になったため、多少は金銭的な余裕が出てきたものの、それでもまだ十分とはいえなかった。


『何としても、もう一度侯爵にまで這い上がるのだ!』


 サラが子供の頃からよく祖父が口にしていた言葉だ。


 代々子爵家に生まれた子供達はこの言葉を言い聞かされて育ってきた。


 だが、侯爵だった時から既に二百年が過ぎている。


 今更、どう足掻いても侯爵に返り咲く事などないだろう。


 けれど、今回の事で少しは王家に貢献出来たと評価してもらえるのではないだろうか?


 弟が家督を継ぐ時にはせめて伯爵の末端には加えてもらいたいものだ。


 サラはそんな淡い期待を抱いていた。





 サラは実家に戻ると、籠を抱えたまま父親の私室を訪れた。


「お父様、少しよろしいですか?」


 サラの父親は突然帰ってきた娘に驚きの声をあげる。


「サラ? こんな夜中にどうした? そろそろ王妃様の出産ではなかったか?」


 サラはそれには答えずに父親の前に籠を置いた。


「お父様。この籠を孤児院に持って行きたいのですが、馬車を出してもらえませんか?」


「孤児院に? 一体何が入っているんだ?」 


 父親がタオルをめくろうとするのをサラが慌てて押し止める。


「お父様。籠の中身は知らない方が身のためです。二百年前の悲劇を繰り返さないためにも…」


「何!? まさか…」 


 サラの言葉で父親は籠の中に何が入っているのか察したようだ。


「王都の孤児院では誰かの口に上るかもしれません。だからなるべく遠くの孤児院に行きたいのですが、こんな夜中では辻馬車は走っていないでしょう? それに他の乗客に気づかれる訳にはいきませんから…」


 万が一、エドアルドが泣き出した場合、この籠に赤ん坊が入れられていると発覚してしまう。


 場合によっては騎士に通報されてしまうかもしれない。


 そうなれば、王家に双子が生まれた事が世間にバレてしまう。


 そうなればサラは王の命令に反したとして処罰されるだろう。


 それこそ、サラが勝手に王子を連れ出したという罪を着せられて処罰されてしまうかもしれない。


 そうなった場合、実家も無傷ではいられないだろう。


 子爵から男爵に降爵させられるか、はたまた平民へと奪爵させられるか…。


「わかった。私が馬車を出そう」


「ありがとうございます」 


 サラは父親と共に屋敷の敷地内にある馬場へと向かった。


 そこには使い古された馬車が一台置かれている。


 家紋は既に剥げて何処の家の馬車かわからなくなっている。


 御者を雇うお金がないため、父親が自ら馬車を操っているのだ。


 一頭しかいない馬を馬車に繋ぎ、父親は御者台に乗った。


 サラは籠を抱えて馬車に乗り込む。


「頑張って走ってくれよ。戻ったら少し良い餌を食べさせてやるからな」


 父親は馬にそう声をかけると手綱を引っ張った。


 馬車はゆっくりと走り出す。


 街中を抜けると馬車は速度をあげた。


 白々と夜が明け始めた頃、馬車はとある街へと辿り着いていた。


 サラは馬車を降りると人目がないのを確認して、孤児院の門の前に籠を置いた。


 籠の中には『エドアルド』と書かれた紙を差し込んである。


「…エドアルド様。どうか、お元気で…」


 サラが馬車に乗ると、馬車は向きを変え来た道を戻って行った。


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