33 暴露
「セレナですか? 彼女はまだ子供は生まれていませんよ」
ダイアナの答えに今度はリリベットが困惑する番だった。
「え? まだ生まれていないってどういう事? だって先日、セレナが男の子と一緒にいるのを見かけたのよ?」
ダイアナはそれを聞くと「ああ」と合点がいったように頷いた。
「その子はきっと養子にもらったエドアルド君ですね」
「養子?」
ダイアナの答えにリリベットの胸がドクンと大きな音をたてる。
「セレナは養子をもらったの?」
「そうなんです。結婚して十年たっても子供が生まれなかったので、孤児院から養子をもらったそうです。それなのに今頃になって妊娠するなんて…。神様ももう少し早くセレナの所に赤ちゃんを授けてくれれば良かったのに…」
「え? セレナは今妊娠中なの?」
ダイアナに問いかけながらリリベットは先日のセレナの様子を思い返す。
エドアルドと呼ばれた子供がやけにセレナを気遣っているように見えたのは、セレナが妊娠中だからなのだろう。
(それにしてもあの子の名前がエドアルドなんて…。もしかしたら陛下が名付けたのかしら?)
考えられる事ではある、とリリベットは思った。
妙なところでこだわりのある人だから、『エドワード』と『エドアルド』という名前を双子に付けたのだろう。
リリベットだって王家に双子が生まれる事の重大さを知らないわけではない。
自分のお腹の中に双子がいるとわかっていたら、どちらかを手放さなくてはいけないのは十分承知している。
だが、それをリリベットには知らせずに勝手に一人を手放した事が許せないのだ。
しかもその片棒をかついだのがサラだとしたら尚更だ。
急に黙り込んでしまったリリベットに、ダイアナは不安そうに顔を覗き込んでくる。
「あの…リリベット様。セレナの子供がどうかしたんですか?」
リリベットは顔を上げると何事もなかったかのようにダイアナに笑いかける。
「何でもないわ。それより、ダイアナはその養子の子供に会った事はあるのかしら?」
「エドアルド君ですか? ええ、先日お茶会を開いた時に我が家に来ましたわ」
それを聞いたリリベットは背筋を伸ばすとダイアナに問いかけた。
「ねぇ、ダイアナ。あなたに見せたいものがあるの」
「見せたいもの…ですか?」
リリベットの様子が変わった事にダイアナは不安そうな目でリリベットを見つめる。
「ええ。…だけど一つだけ約束してちょうだい。絶対に声を出さないってね」
有無を言わさないリリベットの口調にダイアナは黙って頷いた。
リリベットは立ち上がるとダイアナを促して、窓際へと移動した。
窓の外では騎士達と訓練に励んでいるエドワードがいる。
ダイアナはどうして騎士の訓練を見せられるのか分からずに不思議そうな顔をしていた。
やがてその目が大きく見開かれたかと思うと、両手で口を覆っていた。
そのままダイアナは横に立つリリベットに視線を向ける。
「リ、リリベット様。…あの子は…」
リリベットはダイアナの視線を受け止めると、おもむろに口を開く。
「私の息子のエドワードよ。一歳のお披露目から会っていなかったわね」
ダイアナはもう一度、窓の外のエドワードに視線を走らす。
「エドワード様? …だって… あのお顔は…」
「セレナの所のエドアルドにそっくりでしょう?」
リリベットがダイアナに囁くと、ダイアナはコクコクと何度も頷いた。
「そっくりなんてものじゃありません。まるで同じ顔ですわ。一体どういう事なんですか?」
押し殺したような声でダイアナもリリベットに囁き返してきた。
ここで大声をあげて、外に気づかれては不味いとわかっているのだろう。
「どうやら、私は双子を産んだらしいのよ。陛下に尋ねたけれど否定されたわ。だけど、それで余計に確信したの。やはり私が産んだのは双子だったってね」
リリベットはダイアナを促してテーブル席に戻る。
少し冷めたお茶を飲んで喉を潤すと、リリベットはダイアナに告げる。
「今更あの子を王家に迎え入れるつもりはないわ。過去の悲劇が繰り返されるのは困るもの。だけど、ひと目だけでもエドアルドに会いたいの。どうか手を貸してくれないかしら?」
リリベットに手を握られて懇願され、ダイアナはゆっくりと頷いた。
「わかりました。どうにかして会えるように手配しましょう」
「ありがとう。恩に着るわ」
それから二人はいつ、何処でエドアルドと会うのかを計画し始めた。