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31 家督

 義父様は僕と目を合わせると、柔らかく微笑んだ。


「目が赤いね。ウィリアムに何か酷い事を言われたのかな?」


 僕はフルリと首を振ったけれど、義父様は納得していないようだ。


 なおもじっと見つめられて僕はウィリアム叔父様に言われた事を話す。


「エルガー家の家督を継ぐのはクリスだって…。それで僕はこの家を出なくちゃいけないのかと思って…」


 思わず泣いてしまった事が恥ずかしくて僕は俯いた。


 それを聞いて義父様は「はあっ」と大きく息を吐き出す。


「まったく…。いずれ僕から話すと言ったのに…」


 義父様は俯いた僕の顔をそっと持ち上げて顔を覗き込んでくる。


「我が家は男爵という身分ではあるけれど、長く続いている家系なのは知っているね?」 


 義父様に尋ねられて僕はコクリと頷く。


「だからこそ、親戚連中は家督を継ぐ者は血縁者でないと駄目だと思っているんだ。僕達に子供が生まれなくて養子をもらおうとした時も散々反対されたよ」


 血筋にこだわる人達からすれば、何処の馬の骨ともわからない僕なんかを受け入れたりはしないだろう。


 反対されているにも関わらず、どうして僕を養子に迎えたんだろう?


 黙っていても跡継ぎはウィリアム叔父様の子供にほぼ確定していたはずだ。


「ウィリアムの所の子供が家督を継ぐと内々で決めていたけれど、流石に親元から離して引き取る事は出来なかった。その時点でその子は他所の家の子になってしまうからね」


 義父様のいう事は良くわかる。


 ましてやウィリアム叔父様の所は子爵家だ。


 いくらエルガー家が由緒ある家でも、子爵と男爵では身分が変わってくる。


 それに小さい頃から実の親から引き離す事になるのも忍びなかったんだろう。


「跡継ぎ問題は別にしても僕達は子供を育てたいという気持ちが強かったんだ。だからエドアルドを我が家に迎えたんだよ」


 義父様は僕の手を取ってギュッと握ってくれる。


 義父様の温もりが手から伝わってくる。


 その温もりを感じながら今までの事を思い返していた。


 確かに義父様も義母様も僕を実の子のように愛情を持って育ててくれた。


「エドアルドに家督を譲ってあげることは出来ないけれど、クリスの兄としてずっとこの家にいてほしいんだ」


 義父様に懇願されて僕はポロポロと涙を零していた。


 二人は僕を大切に育ててくれていたのに、どうしてここを追い出されるなんて思ってしまったのだろうか?


 義母様の妊娠が発覚した時にも、義父様に頬を叩かれて叱られたのを忘れていたなんて…。


 僕の心の中で『いつかは捨てられる』という思いが根強く残っていたのだろうか?


 義父様は涙を流す僕を抱きしめてくれる。


「最近の僕達の行動がエドアルドを不安にさせてしまったのかもしれないね。何しろ生まれたばかりの赤ん坊の世話なんて初めてだからね」

 

 義父様に言われて僕も「ああ」と思い返す。


 僕がこの家に来た時は一歳を過ぎていたからね。


 義母様は未だにベッドから起き上がれないし、クリスの世話でかかりきりになっている。


 義父様も帰ると真っ先にクリスの所に行ってしまうし…。


 …って、これじゃあまるで生まれたばかりのクリスに嫉妬して、卑屈になっていたみたいじゃないか。


 前世の年齢と足したら二十七歳にもなろうというのに、子供みたいに嫉妬しているなんて恥ずかしい。


「エドアルドには寂しい思いをさせてしまうかもしれないけれど、どうしてもクリスを優先してしまう事を許して欲しいんだ。だけど、僕もセレナもエドアルドを大事に思っている事は間違いないからね」 


 義父様にギュッと抱きしめられて、僕も義父様を抱きしめ返す。


 前世ではこんな風に父親にハグされた事なんて無かったな。


 そう考えたところで、どうして義父様がここにいるのかと今更ながら不思議に思った。


「そういえば、義父様はどうしてここに?」


 義父様のハグから解放された僕が尋ねると、義父様は何でもない事のように告げる。


「親戚連中が来たらすぐに連絡してくれるように伝えていたんだ。まさかこんなにも早く来るとは思わなかったけれどね」


 義父様は立ち上がると僕に手を差し出してきた。


「これからセレナとクリスの所に行くんだ。エドアルドも来るだろう」


 僕は義父様の手を取って立ち上がると「はい!」と大きく返事をした。



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