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28 疑惑

 馬車が王宮へと戻る道すがら、リリベットは先ほど垣間見た少年の事を考えていた。


(あれほどエドワードに似ている少年がいるなんて…)


 リリベットの身内やフィリップの身内にもエドワードに面差しが似ている人はいるが、血縁関係があるのだからそれは当然だと言える。


 だが、街中で見かけた少年がエドワードにうり二つとはどういう事だろうか?


 しかも年齢も同じくらいだったように見えた。


(まるでエドワードと双子の兄弟のようだったわ…なんて)


 苦笑しかけてふと、リリベットは真顔になった。


(…まさか…)


 一度疑い出すと、今まで気の所為だと考えないようにしてきた事がいくつも疑惑として浮かび上がってきた。


 まず第一にかなり大きなお腹を抱えていたにも関わらず、エドワード一人を産んだだけで、元の体型に戻った事だ。


 初めての妊娠だったから、当時はそういうものだと納得していた。


 けれど、改めて考えてみると、子供一人分にしては大きすぎるのではなかったかと思う。


(出産の時は意識が朦朧としていたけれど、二回産声を聞いたような気がするわ)


 陣痛が始まったもののなかなか生まれて来ず、ようやく生まれた時にはリリベットはそのまま気を失っていた。


 その後、また何かが身体から出たような気がしたが、医者によると「胎盤が排出された」と言われた。


 胎盤が何かわからず医者に聞くと母親の身体から胎児が栄養を受け取るためのものだと言う。


 へその緒は胎盤が繋がっていた名残だと言われた。


 長時間の出産でヘトヘトになっていたリリベットは、深く考える事もなく医者の言葉を信じた。


 けれど、実はあの時リリベットが双子を出産したのだとしたら…。


 そして、もう一人の子供を侍女長であるサラがフィリップに言われて王宮から連れ出したのだとしたら…。


 その見返りをサラが求めたとしたら、不自然なマクレガン家の陞爵も頷ける。


 では、サラはその子供をどうしたのだろうか?


 サラがセレナに渡したとは考えられなかった。


 あの二人がそこまで仲が良かったとは到底思えない。


 何しろサラは自分より身分の低い人達とは一線を引いていたからだ。


(サラにセレナの事は聞けないわね。誰か他の人に調べて貰うしかないわ。…でも、それよりも先に陛下に話を聞かないと…)


 王宮の門を馬車がくぐって行くのを見ながら、リリベットはフィリップにどう話をするべきか考えていた。


 



 王宮に戻ったリリベットは、その足でフィリップの執務室に向かった。


 扉の前に護衛騎士が立っているところを見ると在室中だとわかる。


「陛下に話があるの。通してちょうだい」


 リリベットが告げるとすぐに護衛騎士が扉を開けてくれた。


 突然姿を見せたリリベットにフィリップは戸惑ったような表情を見せる。


「急に訪ねてくるなんて、何かあったのか?」 


 リリベットはそれには答えず、フィリップの元へ近寄った。


「少しお聞きしたい事があります。人払いをお願いします」 


 有無を言わさぬリリベットの口調にフィリップは困惑しつつも、文官達に退出するように伝えた。


 文官達が出ていき扉が閉まったのを確認すると、リリベットは身を屈めてフィリップの耳元に口を寄せた。


「陛下。私は双子を産んだのですか?」


 そう囁いた途端、フィリップが一瞬目を大きく開いたのをリリベットは見逃さなかった。


 だが、フィリップは何事もなかったかのように穏やかな笑顔をリリベットに向けた。


「どうしてそんな事を聞くのかな? リリベットが産んだのはエドワード一人だ。リリベットだってそれを知っているだろう」


 それを聞いた途端、リリベットはフィリップに真実を追求するのは止めた。


 元々政略結婚で、それなりに好意は持っていても愛情があるわけではなかった。


 エドワードを妊娠した時だって、側妃に先に妊娠されて王妃の座を奪われるのが嫌だっただけだ。


 あの日以来、フィリップとベッドを共にした事はない。


 国王と王妃という対面は保っているが、それ以上でもそれ以下でもなかった。


「そうですか。お邪魔いたしました」


 リリベットはフィリップから離れると振り返らずに部屋から出て行った。




 

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