221 ツノウサギ
ようやくウィルが入っていった森の入り口に到着した。
ざっと見渡すがどこにもウィルの姿は見えない。
まったく!
どこまで行っちゃったんだ?
肩で息をしながらウィルの後を追うために森の中へと入って行く。
木々が生い茂る中に足を踏み入れたが、ウィルの姿はどこにも見当たらない。
更に奥へと進んで行くと、向こうの方で「ピィーッ」という甲高い声が聞こえた。
まさか!?
ウィルの身に何か起きたのか!?
急いで声のした方へと駆け出したが、地面に出ている木の根っこに足を取られて思うように進まない。
それでも奥へと進むと向こうの方に宙に浮いた真っ黒なドラゴンの姿が見えた。
その向かいに見えるのは耳と耳の間に一本の角が生えたウサギだった。
だが、僕の知っているウサギとは大きさと容姿がまるで違っていた。
柴犬くらいの巨体で、吊り上がった真っ赤な目をして、口を開けて牙をむき出しにしている。
そんな凶暴なウサギの姿に、前世で子供の頃にふれあい動物園で抱っこした愛らしいウサギとの思い出がガラガラ
と音を立てて崩れていく。
大きさから言ってもツノウサギの方がドラゴンのウィルよりも格段にデカい。
あのままじゃウィルがやられてしまう。
ウィルに近寄ろうとしたところで、ツノウサギもウィルに向かって突進していった。
ヤバい!
ウィルがやられる!
だが、ドラゴンの姿に戻ったウィルは口をカパッと開けるとボッと火の玉を吐き出した。
昨日、僕に向かって吐き出した火の玉よりも大きくて火力のある火の玉だった。
ツノウサギがギョッとしたように、足を止めて逃げようとしたが、それよりも早くウィルの吐き出した火の玉はツ
ノウサギに命中した。
「ピィーッ!」
あっという間にツノウサギの姿は炎に包まれた。
一瞬の出来事に立ちすくんでいると、僕の身体を何かが追い越していった。
バシャッという音と共にツノウサギを包んでいた炎が消される。
後ろを振り返ると僕達に追いついたオーウェンが手のひらをこちらにかざしていた。
どうやらオーウェンが水魔法でツノウサギの火を消したらしい。
「やれやれ。火の玉を吐くのはいいですが、焼きすぎると何も残らないじゃないですか。もう少し火力を加減してく
ださいよ」
オーウェンはそう言いながら更に手のひらをツノウサギにかざした。
すると、ブスブスとくすぶっていたツノウサギの身体が宙に浮いた。
黒焦げになっていたツノウサギの身体が綺麗になり、角が取れた。
取れた角はゆっくりとこちらに向かってくると、ヴィンセントの手のひらの上に落ちた。
「ツノウサギの角は討伐の証拠になりますからね。まずはこちらを回収するのが先決ですよ」
そう言いながらオーウェンは更に魔法でツノウサギの身体を解体していく。
ツノウサギの毛皮を剥ぎ、内臓を取り出すと地中に埋めた。
一部の肉を残すと他はすべて亜空間へと収納していった。
「ウィル。火の玉を吐いてお腹が空いたでしょう。食べて良いですよ」
「ホント!? いっただきまーす!」
ウィルは宙に浮いたまま、オーウェンにもらった肉にかぶりついた。
どう見ても生肉なんだけど、お腹を壊したりしないのかな?
僕は唖然としながら、ウィルがツノウサギの肉を食べるのを見つめていた。




