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212 オーウェンからの贈り物

 僕は義母様にすがりついて泣いているクリスの頭を優しく撫でると、意を決して立ち上がった。


「…もう行くのか?」


 義父様が驚いたように立ち上がった僕を見上げてくる。


 それを聞いたクリスが再び僕に抱きついてきた。


「嫌だ、兄様! もう一日だけ傍に居てください!」


 クリスにそうお願いされて僕の心が揺らぐ。


 僕だってもう少しみんなと一緒に居たいけれど、そこはぐっと堪えた。


「クリス、ありがとう。僕ももっとクリスと一緒に居たいけれど、その間に万が一の事がないとも限らないからね」


 僕はもう一度クリスをギュッと抱きしめると、そっとクリスの身体を引き剥がした。


「エドアルド。身体に気をつけるのよ」


 義母様が僕の身体をそっと抱きしめてくれた。


 こうして義母様に抱きしめて貰うのは何年ぶりくらいだろう?


 いつの間にか義母様の身長を追い越してしまっていた事を改めて感じられた。


「エドアルド。絶対に戻ってくるんだよ」


 いつの間にか傍に来ていた義父様が、義母様と交代で僕を抱きしめてくる。


「はい、義父様。必ずここに戻ってきます!」


 そう決意を固めて義父様に宣言すると、義父様は力強くうなずいた。


 名残惜しいけれど、いつまでもこうしてはいられない。


「それじゃ、行ってきます!」 


 僕は努めて明るい笑顔を作って、みんなに手を振って部屋を出て行った。


 扉をバタンと閉めると同時に、クリスの泣き声とそれをなだめている義母様の涙声がかすかに聞こえた。


 僕はギュッと唇を噛み締めて玄関へと足を進めた。


 玄関先に停まっている馬車に近づくと御者が扉を開けてくれた。


「お別れは済みましたか?」


 オーウェンが僕を気遣うような口調で尋ねてくる。


「…はい」


 僕はどんよりとした気分で返事をすると、向かい側に腰を下ろした。


 馬車が走り出すと、僕は改めてオーウェンに尋ねた。


「これからどこに行くんですか?」


 オーウェンは涼し気な顔で僕を見つめる。


「そうですねぇ。エドアルド君の敵の正体がわかりませんからねぇ。とりあえずは隣街に向かいましょうか」


 そういえば、今は学院は休暇中だった事を思い出した。


 だからこそこうして僕に付き合ってくれるのだろう。


 オーウェンの力で僕を狙っている人物の正体を探る事は出来ないのかな?


 そんな事を考えながらオーウェンを見つめると、僕の意図を察したのかオーウェンが肩をすくめた。


「協力してあげたいのは山々ですが、流石に私には介入ができませんからね。代わりにこれを差し上げましょう」


 そう言ってオーウェンがポケットから取り出した物を僕の手に乗せた。


 僕は手のひらの上にある物を見つめて目を丸くした。


 …卵?


 僕の手の中には鶏の卵よりも一回り小さい卵が乗っていた。


「これは、何の卵ですか?」


 すると、オーウェンはいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「内緒です。懐の中に入れて温めてあげてください。もうしばらくすると孵ると思いますよ」


 そう言われて僕はまじまじと手の中の卵を見つめた。


 まさか、ひよこが生まれたりしないよね?


 懐の中にと言われてもどこに仕舞えばいいんだろうか?


 僕が卵をどこに入れようか迷っているとオーウェンがクスッと笑った。


「少々ぶつけたくらいじゃ割れませんからね。あまり気を使わなくても大丈夫ですよ」


「…ありがとうございます」 


 僕はお礼を言うと卵を胸ポケットに入れた。


 卵からトクトクと小さな鼓動が僕の身体に伝わってくる。


 そう言えば、鳥は生まれた時にそばにいる物を母親と認識するらしいが、この卵の中の生き物も僕を母親と思うの

かな?


 そう思うと少しばかり楽しい気分になってきた。


 僕達が乗った馬車はガラガラと音を立てて隣街へと向かった。


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