210 お迎え
ひとしきり泣いた頃、扉をノックする音がした。
慌てて手の甲で涙を拭うと「はい」と返事をする。
泣いたせいで声がちょっと鼻声だ。僕の返事と同時に扉が開いて入って来たのは、オーウェンだった。
予想外の人物の登場に僕は思わず目をしばたたいた。
「…オーウェン? どうしてここに?」
そもそも人前にオーウェンの姿で現れていいものなんだろうか?
そう思いながらまじまじとオーウェンの姿を確認すると、エルフ特有の尖った耳ではなく丸みを帯びていた。
どうやら人間のフリをしているようだ。
「昔なじみから連絡をもらいましてね。エドアルド君を迎えに来たんですよ。何でも命を狙われているとか? とりあえず家まで送りますよ」
例によってキラキラスマイルを振りまくが、どことなく面白がっているようなのが癇に障る。
けれど、敵がどこの誰なのかわからない以上、オーウェンの申し出は有難い。
ここは素直に好意を受け取る事にしよう。
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
オーウェンと共に応接室を出ると、皆の視線が一斉にオーウェンへと集中している。
まあ、これだけ完璧な美形がいたら、誰だって目が釘付けになるに決まっている。
特に女性陣達の目がハートになっているのは間違いない。
オーウェンはそんな視線にも我関せずに颯爽と歩いている。
むしろ、一緒にいる僕の方がいたたまれない気分になってくる。
どう見てもオーウェンの引き立て役にしか見えないんだろうな。
冒険者ギルドから出るとそこには馬車が待っていた。
僕達の姿を見てすかさず御者が扉を開けてくれた。
馬車の中には案の定、ヴィンセントの姿がそこにあった。
御者側に腰を下ろすと、後から乗り込んできたオーウェンがヴィンセントの隣に腰を下ろした。
馬車が走り出すと、オーウェンが「そうそう」と切り出す。
「冒険者ギルドに到着したらアーサー君が泣きながら出てきましたよ。友人のアーサー君を泣かせるなんてエドアルド君は悪い子ですねぇ」
オーウェンの言葉が僕の心にナイフのように突き刺さる。
確かにアーサーを泣かせてしまって悪い事をしたと思っている。
だけど、今の僕の現状を思えばそれは仕方のない事だと思う。
誰が敵かわからない以上、僕の側にいるのはとても危険な事だ。
どうにかして敵を突き止めないと…。
そう考えて僕はオーウェン達が現れた理由に思い至った。
「もしかして、敵を暴くために来てくれたんですか?」
そうでなければわざわざ人間の姿で人前になんて現れないだろう。
「仕方がないでしょう。何と言ってもヴィーの子孫ですからねぇ。ここで見殺しにしたらヴィーにも恨まれますからね。…ね」
オーウェンはそう言って隣に座るヴィンセントに同意を求める。
ヴィンセントはそんなオーウェンを鼻で笑う。
「私が頼むより先にオーウェンが動いたじゃないか。エドアルドを気に入っているのを隠さなくていいんだぞ」
どうやら僕はオーウェンに気に入られているらしい。
それをヴィンセントに暴露されてオーウェンはフンとそっぽを向いた。
だから、そういうやりとりは僕が見ていないところでやってもらいたいんだが。
そのうちに馬車はエルガー家の敷地内へと入っていった。
門番がこの馬車を止めずにノンストップで通したのは、オーウェンが何かしらの力を使ったのだろう。
玄関に到着すると御者が扉を開けてくれた。
「私達はここで待っているから、家族の皆と話をしてきなさい」
馬車から降りた僕の背中にオーウェンの声が追いかけてくる。
家族の皆と言われても、義父様は王宮で仕事中のはずなんだけどな。
だが、玄関先で待っていた執事が当たり前のようにこう告げてきた。
「お帰りなさいませ、エドアルド様。皆様がお待ちです」
どうやらオーウェンによって準備万端整えられていたようだ。




