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209 決別

 ギルドマスターは立ち上がると自分が座っていた席をアーサーに譲った。


「僕はそろそろ仕事に戻るよ。これ以上サボっていると他の職員から苦情が出そうだからね」


 そう、いたずらっぽく笑いながらギルドマスターは応接室を出て行った。


 アーサーは戸惑いつつもギルドマスターに譲られた席に腰を下ろした。


 こうして改めてアーサーと向かい合って座るのはいつ以来だろうか?


 戸惑っていた顔のアーサーだったが、僕の様子がおかしい事に気づいて不安そうな顔を見せる。


「…エド、どうかした? ギルドマスターに何か言われたのか?」


 どこまでも優しいアーサーに僕は心を鬼にして告げる。


「アーサー。今この時をもってパーティーを解消しよう」


 そう告げるとアーサーは一瞬、キョトンとした顔をし、すぐにプッと噴き出した。


「エドってば、何言ってるんだよ。冗談にしてもちょっとキツイぞ」


 そう言って笑っていたアーサーの顔から徐々に笑顔が消えていく。


 僕の顔を見て冗談を言っているのではないと気づいたのだろう。


「エド、どういう事だよ。パーティーの解消なんて、どうして!?」


 僕を問い詰めてきたアーサーだったが、突然ハッとしたような顔になる。


「もしかして今日の出来事が原因か? あれくらいどうって事はないよ。これから魔獣の討伐をするようになったら、もっと危険な目に遭うかもしれないだろ?」


 身を乗り出してくるアーサーに対して僕は静かに首を振った。


「駄目だよ、アーサー。さっきのリリザを見ただろう。僕を排除するためなら手段を選ばないような奴だ。もしかしたら、アーサーを人質にして僕に迫ってくるかもしれない。そんな事態に陥ったらアーサーは自分を許さないだろう? 僕はアーサーにそんな思いをさせたくないんだ。それに、僕と一緒にいるとアーサーにまで危険が及ぶ。僕の目の前でアーサーがリリザみたいになったらと思うと…。だから、もうアーサーとは一緒にはいられない」


 泣かないつもりだったのに、僕の目からポロポロと涙がこぼれてくる。


 アーサーの目も徐々に赤くなっていく。


「…だけど、エド…」


 アーサーは何とか反論しようと口を開くが、言葉にはならないようだ。


 一緒にいる事でどういうリスクを僕に与えるか、アーサー自身もわかっているはずだ。


 アーサーはがっくりとうなだれていたが、やがて決意を固めたように顔を上げた。


「…わかったよ、エド。今日でパーティーを解消しよう。ただし!」


 アーサーはそこで言葉を切ると、きっと僕を見据えた。


「エドを排除しようとしている敵がいなくなったら、また絶対に僕とパーティーを組む事! それを約束してくれるよね」


 アーサーの真っ直ぐな目に見つめられて、僕は何度もうなずいた。


 本当にアーサーってば…。


「わかった。約束するよ」


 どちらからともなく手を差し出すと、固い握手を交わす。


 この手を離した瞬間から、僕達はパーティーではなくなる。


 僕が手を緩めると、アーサーも手の力を抜いた。


 お互いの手が離れると、アーサーはサッと立ち上がった。


「それじゃ、僕は先に帰るよ。それじゃ、エド。…またね」


「ああ。アーサー、またね」


 お互いに『さよなら』は言わなかった。


 今までだってそうだったから、これからもそうあるべきだ。


 アーサーは振り返らずに扉を開けて出て行った。


 涙が後から後から溢れてくるのを止められなかった。


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