166 晩餐会
ブライアンと暫しの休息を過ごした後、いよいよ晩餐会の始まる時間となった。
出迎えの時と同じように宰相が迎えに来て、僕とブライアンは再び隣の棟へと向かう。
支度部屋に行くと先ほどとは違うデザインの上着を着せられ、髪型も整えられる。
少し崩れかけていたブライアンの髪も再びビシッと整髪料で固められている。
ちょっと見慣れてしまったので、ブライアンを見て笑えないのが残念だ。
出迎えに使われたホールが晩餐会会場となっていて、他の貴族達は既に着席しているそうだ。
ホールへの入り口に向かうと、そこには国王陛下と王妃が僕が来るのを待っていた。
「これで揃ったな。では行くぞ」
国王陛下が告げるとホールへの入り口の扉が開かれた。
国王陛下、王妃、僕の順番でホールの中に入って行く。
まず、中央の席に国王陛下が座った。
一つ席を空けて国王陛下の左側に王妃が座り、同じく一つ空けて右側に僕が座った。
僕達が着席すると、今度はサウスフォード王国の使節団の人達が入場してきた。
国王陛下と王妃の間の席に使節団団長が座り、王妃の隣の席に団長の妻が座った。
そして、国王陛下と僕の間の席にはアンジェリカ王女が腰を下ろした。
アンジェリカ王女は国王陛下に会釈をした後、僕の方に向いて軽く頭を下げてきた。
アンジェリカ王女に頭を下げられ、僕も慌てて彼女に会釈を返す。
他の使節団の人達は、貴族達が座るテーブルの方に分散するように座った。
ブライアンは僕の隣の席に座っている。
この晩餐会でのブライアンは僕の従者ではなく、公爵令息という立場での参加だ。
それぞれが着席をすると乾杯のための飲み物がグラスへと注がれた。
勿論、僕達三人のグラスに注がれるのはジュースである。
あー、そう言えば転生してからビールなんて飲んでないな。
そもそもこの世界にビールなんてあるんだろうか?
そう考えたら無性にビールが飲みたくなってきた。
ん? 待てよ?
この世界では十六歳が成人だって言ってなかったか?
という事は、あと四年も待てばお酒が飲めるって事だな。
あと四年…。
待てるかな?
そんな事を考えている間に乾杯の準備が整ったようで、国王陛下が立ち上がった。
それを合図に招待客がグラスを持って一斉に立ち上がる。
「皆の者! 今年もまたサウスフォード王国より使節団が我が国を訪れてくれた。そしてこちらの可愛らしいアンジェリカ王女も来てくださった。これからも両国の友好と繁栄を願おう! 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
国王陛下がグラスを上に掲げると、皆も一斉にグラスを掲げた後、そのグラスに口を付けた。
前世のようにグラスをぶつけ合う事はしないようだ。
そう言えばグラスをぶつけ合うのは、毒が入っていない事を確認するためのものらしいな。
雑学好きの友人が得意そうに話して回っていたっけ。
僕も一口ジュースを口に入れるとグラスを置いて席に座り直した。
目の前には既に最初の料理のお皿が並べられている。
僕はカトラリーを手に取るとエドワード王子と同じ仕草で食べ始めた。
「エドワード様はわたくしと同い年だとお聞きしましたが、お隣の方もそうなのですか?」
隣に座るアンジェリカ王女が話しかけてきた。
僕はカトラリーを持つ手を止めてアンジェリカ王女の方に顔を向ける。
「はい。彼はブライアン・アルドリッジと言います。私の幼馴染であり従兄弟でもあります」
「まあ、エドワード様の従兄弟でいらっしゃるのですね。それではエドワード様の小さい頃もよくご存知なんでしょうね」
ニコニコとした顔でアンジェリカ王女がブライアンの方を見る。
「勿論です。アンジェリカ王女がご所望でしたら、エドワード王子の小さい頃のエピソードをお話いたします」
ブライアンがアンジェリカ王女にそう返すけど、後で本物のエドワード王子に怒られても知らないからな。
僕は当たり障りのない笑みを浮かべると黙々と料理を口に運ぶのだった。




