164 使節団
廊下をしばらく歩いていくと、二人の騎士が立っている扉が見えた。
僕達が近づくと、騎士達はピシッと背筋を伸ばす。
宰相は軽くうなずくとその扉を開けた。
僕達の前に広いホールが現れるが、中は既に大勢の人々で埋め尽くされていた。
皆の視線が一斉にこちらに向いたのを肌で感じる。
目の前の壇上には、国王陛下と王妃の座る玉座が置かれているが、まだ二人は来ていない。
「エドワード王子はこちらに立っていただきます」
宰相が玉座から少し離れた位置へと僕を誘導する。
「わかった」
僕は宰相に指示された位置に立つと、ホールにいる人々に顔を向けて軽く微笑む。
宰相はまた扉を出てどこかへ行ってしまったが、ブライアンは僕から少し離れた壁際に立った。
僕は壇上からホールにいる人々に視線を向ける。
ホールの人々を二分するように中央には赤いカーペットが敷かれている。
おそらくあそこを使節団が通って来るのだろう。
誰もがきらびやかな衣装を身にまとい、こちらを注視している。
前方は高位貴族が占めているようで僕の見知った顔はない。
だが、あの中には既にエドワード王子と面識のある者がいるはずだ。
それでも誰からも不審な目を向けられないのは、僕をエドワード王子だと信じて疑っていないのだろう。
やがて、壇上の向こうの扉が開いて、国王陛下と王妃が姿を見せた。
その後ろに宰相の姿も見える。
どうやら、僕を案内した後で国王陛下と王妃を連れてきたようだ。
国王陛下にエスコートされて王妃がにこやかな笑みを浮かべている。
二人が仲睦まじげに玉座の方へと足を進める。
とても中の悪い夫婦には見えないな。
王妃は玉座の横に立っている僕に軽く微笑むと、国王陛下に手助けされて玉座に腰を下ろした。
国王陛下はそのまま僕の横の玉座に腰を下ろす。
宰相は二人が腰を下ろしたのを確認すると、人々に向かって声を張り上げた。
「本日はお集まりいただきありがとうございます。サウスフォード王国より使節団の皆様が訪問されました。今回はサウスフォード王国の第二王女もご同行いただいております。それではご入場いただきます」
宰相の合図と共にホールの奥の扉が開かれて、サウスフォード王国の使節団の面々が姿を見せた。
使節団団長がホールの中へ入って来るが、その後ろに少し背の低い少女が続いている。
あれがおそらく第二王女なのだろう。
第二王女の後を数人の使節団が続く。
壇上の前にたどり着くと、使節団の人々はそこで足を止めた。
皆がそろったのを確認すると、使節団団長がうやうやしく頭を下げた。
「アルズベリー王国国王陛下、並びに王妃殿下。今年もこうしてお目にかかれて嬉しく思います。サウスフォード王国使節団団長のハロルド・ストークスです」
頭を上げた男性がニコリと僕達に向かって微笑んだ。
「ストークス殿、久しぶりだな。さて、そちらのかわいらしい女性を紹介してくれるか?」
国王陛下に促され、使節団団長は横にいる少女に視線を向ける。
「はい。こちらが我が国の第二王女、アンジェリカ様でございます」
使節団団長に促され、顔を伏せていた少女が頭を上げた。
ふわんとした印象のかわいらしい少女がはにかんだような笑みを浮かべる。
「はじめまして、国王陛下、並びに王妃殿下。アンジェリカと申します。以後お見知り置きを」
優雅なカーテシーに周りの貴族達から感嘆のため息が溢れる。
確かに可愛いとは思うけれど、僕の好みじゃないな。
僕はもっとこうキリッとした女性の方が好みだな。
そう思ったところでフッと夏姫の顔が頭に浮かぶ。
手酷い裏切りを受けたのに、未だに彼女が忘れられないんだろうか。
僕は頭の中から夏姫の顔を振り払うと、セレモニーに集中した。




