152 登校
翌日、いつものようにスクール馬車に乗って学院に到着したが、すぐには馬車から降りられなかった。
昨日のようにエドワード王子が外で待っているんじゃないかと気が気ではなかったからだ。
「エド、降りないのか?」
なかなか座席から立ち上がろうとしない僕を見てアーサーが首をかしげる。
「う、うん。…ちょっと…」
口ごもる僕を見てアーサーが思い出したようにポンと手を打った。
「あっ、そうか。昨日みたいにエドワード王子がいらっしゃるかもしれないと思っているんだね。僕が先に降りてエドワード王子がいらっしゃるかどうか見てくるよ」
そう言うなりアーサーはタッと駆けて馬車から降りていった。
見てきてくれるのはいいが、実際にエドワード王子がいたとしても馬車から降りなくてはいけないのだからなんの解決にもならない。
まあ、居たなら居たで心積もりが出来るから無駄にはならないだろう。
それほど待つ事もなくアーサーが再び馬車に乗ってきた。
「僕が見た限りではいらっしゃらないみたいだったよ」
「そうか。ありがとう」
アーサーの後に続いて馬車を降りる。
僕が最後だったので、僕が降りた途端馬車の扉が閉められ、馬車は走り去っていった。
なかなか馬車から降りない事で御者の人には迷惑をかけてしまったな。
アーサーの言った通り、エドワード王子の姿はなかった。
ホッとして教室に向かうと、教室内は昨日の魔獣の襲撃の話題で持ちきりだった。
「まさかこの学院に魔獣が出てくるとは思わなかったな」
「学院には結界が張ってあって魔獣は侵入して来れないんじゃなかったの!?」
「あの後、王宮魔術師団が来て調査したらしいけど、どうやら小さな綻びがあったらしいよ」
僕は席に着きながらその話に聞き耳を立てる。
昨日、宰相はその事については何も話さなかったからだ。
オーウェンも結界については何も言っていなかったしな。
学院の結界もオーウェンからすれば管轄外なのかもしれない。
クラスメイト達の話題は今度は魔獣を倒したエドワード王子に移っていた。
「あの魔獣を倒したのはエドワード王子なんだってさ」
「まあ、流石はこの国の王子だけあるわね。身を呈して私達を助けてくださるなんて…」
エドワード王子だけでなく、僕も一緒に魔獣を倒したんだけれど、流石にそれを宣言する気にはなれない。
どうやって魔獣を倒したのかとか、どうしてエドワード王子と同じくらいの魔法が使えるのかとか、根掘り葉掘り聞かれるに決まっている。
アーサーはクラスメイト達に何か言いたそうな顔をしているけれど、僕は軽く首を振ってそれを止めた。
アーサーはちょっと不満そうな表情をみせたけれど、仕方なさそうにうなずいた。
そのうちに始業のチャイムが鳴り、担任のディクソン先生が教室の扉を開いた。
おしゃべりしていた生徒達は蜘蛛の子を散らすように慌てて自分の席に戻って行った。
「皆さん、おはようございます。昨日は魔獣の襲撃という事態を招いてしまい申し訳ありませんでした」
ディクソン先生が僕達に対して深々と頭を下げた。
別にディクソン先生の責任ではないし、ディクソン先生が頭を下げる必要もない。
この場合、頭を下げるべきなのは学院長であるオークウッド学院長のはずなんだけどな。
そう思っているとディクソン先生が
「緊急の全校集会を行いますので、講堂の方に移動をお願いします」
と告げてきた。
昨日、王宮の魔術師団の調査も入ったらしいからその報告も兼ねるのだろう。
僕達は廊下に整列すると、ゾロゾロと講堂に向けて歩きだした。
講堂には椅子が並べられていて、既に上位貴族の生徒達は着席して待っていた。
その中にエドワード王子の姿があるのをチラリと確認すると、僕は自分達の席へと座った。




