151 ブライアンとの話(サイラス視点)
サイラスはエルガー家の屋敷を出ると馬車を自分の屋敷に向かわせた。
帰宅時間でもないのに突然帰ってきたサイラスに屋敷の者は右往左往していた。
「すぐに王宮に戻るから、私の事は気にしないでくれ。それよりもブライアンは戻っているか?」
サイラスが問うていると、ブライアンが屋敷の奥から出て来た。
どうやらサイラスが戻った事を聞きつけて玄関の方に出てきたようだ。
「父上、お早いお帰りですね。何かありましたか?」
駆け寄るブライアンをサイラスはそのまま自分の執務室へと連れて行った。
「それで? 学院に魔獣が出たそうだな。詳しく聞かせてもらおうか」
既に報告書には目を通し、エドアルドからも話を聞いていたが、サイラスは敢えてブライアンからも話を聞きたかった。
同じ出来事について話しても、視点が変われば違った切り口の話が聞けるからだ。
だが、ブライアンの口から出てきたのは判で押したように報告書やエドアルドの話と全く同じだった。
『まるきり同じ話しか出てこないとはどういう事だろうか? まるで口裏合わせでもしているような…』
そう思ったが、それ以上ブライアンを問い詰める事はしなかった。
魔獣出現よりももっと重要な話をしなければならないからだ。
「わかった。それで、エドアルド様の事はいつから知っていたんだ?」
「え? あ、あの…その…」
ブライアンはまさかエドアルドの話が出てくるとは思っていなかったらしく、突然しどろもどろになった。
「いいから話しなさい。私と陛下は既にエドアルド様の事は把握している」
サイラスにピシャリと告げられ、ブライアンは観念したように話し出した。
「昨日、剣術の授業でお二人が模擬戦で対峙されたのが始まりでした。そして今朝、エドワード王子はエドアルド様の登校を待っていらして、お昼には下位貴族の食堂に向かわれたんです」
「なるほど。昨日の模擬戦で顔を合わせた事で、ご自分達が双子だと認識されたのだろうな」
顔は黒縁眼鏡に印象が持っていかれるが、姿形はそっくりな二人だ。
そのうちに学院で『二人が似ている』という噂が立ってもおかしくはないだろうとサイラスは睨んだ。
「ブライアンはどう思う? そのうち『二人が似ている』という噂が出てきそうか?」
サイラスに問われてブライアンはすぐにうなずいた。
「その可能性は否定出来ません。現に私はエドアルド様の後ろ姿を見てエドワード王子だと思い込んで声をかけてしまいましたから」
ブライアンの言葉にサイラスは納得した。
実際に二人が並んだら後ろ姿では判別がつきにくいだろう。
「そうなった場合の対処法は考えているのか?」
「まだはっきりとは決めておりません。お二人は『他人の空似』で押し通されるようです」
それを聞いてサイラスは考え込んだ。
来年にはエドワード王子は公の場に顔を出されるようになる。
そうなればエドアルド様を知っている者がエドワード王子の姿を見て訝しむ者も出てくる事だろう。
問題は真実が白日の下に晒された時に、エドアルド様を手放すという陛下の判断を非難されてしまう事だ。
『どうにかして陛下の判断を正当なものとして印象づけさせないとな』
サイラスはそう決意すると、再び王宮へと戻って行った。




