150 義両親との話2
零れ落ちた涙を手の甲でゴシゴシとぬぐうと義母様がクスッと笑った。
「あらあら、そんなにこすったら赤くなってしまうわ。クリスに泣いた事がバレるわよ」
これから夕食の席でクリスと顔を合わせるのに、泣いてたなんて知られたくはないな。
義母様に差し出されたハンカチでそっと涙を押さえると、大丈夫と言うように義母様がうなずいた。
義母様がソファに座り直すと義父様が思案顔を見せた。
「エドワード王子と双子という事は、顔も似ているのだろう? 学院で話題になったりは…」
そこまで言って義父様は何かを思い出したように「あぁ」と声を上げた。
「だからあの黒縁眼鏡をかけていたのか。学院に通う時だけ眼鏡をかけるようになったから、どうしてなのかと思ったらそういう事か」
義父様に賛同するように義母様も頷いた。
「クリスに泣かれてまで眼鏡をかけたのは学院で顔を隠すためだったのね」
最初の頃は僕の眼鏡姿に泣いていたクリスだったが、すぐに慣れてしまった。
もっとも家にいる時はさほど必要ないので外している。
「もしかして、もうエドワード王子とは双子だと名乗りを上げたのか?」
「はい。今ではエドワード王子の他にブライアン・アルドリッジ様とクリフトン・ダウナー様とアーサーが知っています」
「…そうか。陛下が公表しない以上、エドアルドがエドワード王子と双子だと知られるわけにはいかないだろう。学院では絶対に眼鏡を外したりしないようにな。秘密を共有する仲間がいるのなら、誤魔化す事も出来るだろう。万が一の時は『他人の空似』で押し通すようにな。サイラス様がご存じなら、噂になった時には何か手を打ってくださるだろう」
義父様に言われて僕は先ほど会った宰相の顔を思い浮かべた。
確かに『切れ者』という言葉がピッタリの人だったな。
義父様に言われるまでもなく、学院では眼鏡を外すつもりはない。
今のところ『似ている』と話題になった事はない。
このまま何事もなく卒業出来たら万々歳なんだけどな。
あと四年以上あるけれど、耐えられるんだろうか?
先に義父様の執務室を出て食堂に向かっていると後ろから「にいさま!」と声をかけられた。
振り向くと向こうからクリスがバタバタと駆けてくる。
そのままドン、とぶつかってくるクリスを受け止めてやる。
「にいさまはとうさまとおはなしだったの? なんのおはなし?」
無邪気に聞いてくるクリスに
「学院の事を聞かれただけだよ」
と、当たり障りのない事を告げて僕はクリスと手を繋いで食堂に向かった。
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エドアルドが執務室を出て行って扉が閉まると、ダニエルとセレナはほうっと大きなため息をついた。
「まさかとは思っていたが、本当に陛下の子供だったとは…。二百年前の悲劇を繰り返させないためとはいえ、エドアルドを孤児院に入れる事はなかっただろうに…」
「本当だわ。よくリリベット様が承知したわね」
「それよりもこれからエドワード王子が公の場に出られるようになったら、エドアルドに似ているという声があがるかもしれないぞ」
「そんなの『他人の空似』で押し通せばいいだけだわ。それに学院に通うようになってからはあの黒縁眼鏡をかけるようになったから、小さい頃の顔なんて誰も覚えていないかもしれないわ」
セレナが肩をすくめるとダニエルはフッと口を緩めた。
「それもそうだな。大体、ここであれこれ考えても仕方がない。なるようにしかならないさ。それよりも早く食堂に行かないと、子供達がお腹を空かせて待っているぞ」
「そうね。早く行きましょう」
ダニエルに手を取られて立ち上がったセレナはそのままエスコートされて食堂へと向かった。




