147 宰相との話
『眼鏡を外して欲しい』と言われても、「はい、そうですか」と言って簡単に外すわけにはいかない。
王宮の宰相という事は、エドワード王子の顔は見慣れているはずだ。
そこで、ようやく僕は宰相が誰に似ているのかを思い出した。
ブライアンの顔が宰相の顔と重なる。
そう言えば『サイラス・アルドリッジ』って名乗っていたっけ。
つまり、宰相はブライアンの父親であり、エドワード王子の伯父という事になる。
「あの、どうして僕の眼鏡を外さないといけないんですか? 眼鏡を外すと何も見えなくなるんですが…」
それは全くの嘘だけれど、なんとかして眼鏡を外さずに済ませたい。
だが、宰相はそんな僕の望みを無惨にも打ち砕く。
「おや、そうですか? こちらから見るにそんなに度は入っていないようですがね。外したくない理由でもあるのですか? とある人に顔が瓜二つだから外したくないとか?」
宰相に図星を突かれて僕はぐっと返事に詰まる。
「そ、それは…」
助けを求めようにも誰にも頼れないのがもどかしい。
義母様に話すわけにもいかないし、オーウェンやヴィンセントには『関わらない』と明言されている。
ここは僕自身で対処するしかないのだ。
目を泳がせる僕に宰相は更に追い打ちをかけてくる。
「もう諦めて眼鏡を外してください。私はリリベット…いえ、王妃様からあなたがエドワード王子と双子の兄弟だと聞いているんですから」
「え?」
まさか?
あの王妃がしゃべっちゃったの?
『双子だったと公表する気もないし、あなたを引き取る事もしないわ。他人に聞かれたら『他人の空似』で押し通してちょうだい』
あの日、母親である王妃から言われた言葉が脳内に蘇る。
王妃に話を聞いて来たからこそ、宰相は始めから僕を『捨てられた王子』だと知って会いに来たのだろう。
だとしたら、これ以上隠し通す事は出来ないだろう。
僕は軽くため息をつくと黒縁眼鏡に手をかけてゆっくりと外した。
「おおっ! 確かにエドワード王子に瓜二つですね」
僕が眼鏡を外して素顔をさらけ出すと、宰相はじっくりと僕の顔を見て満足そうにうなずいた。
「さて、エドアルド様。本日、学院に魔獣が出た際、エドワード王子と魔獣を倒したと言うのは本当ですか?」
宰相に問われて僕は学院長に話した事と同じ話を繰り返す。
「なるほど、わかりました。それでは、どうしてエドワード王子は下位貴族の食堂にいらしたのかご存知ですか?」
「え?」
まさか、そんな質問をされるとは思わなかったので、僕は答えに窮する。
「そ、そんな事を僕に聞かれても困ります。直接エドワード王子に聞いてみてください」
そう言ってはぐらかすが、そんな事で宰相を誤魔化す事は出来なかったようだ。
宰相は僕をじっと見つめてニッコリと微笑んだ。
「私が思うにエドワード王子はエドアルド様の事を知っていて会いに行かれたと思うんですが、違いますか?」
宰相は何もかもを見透かしたような目で僕をじっと見つめてくる。
あの目で見つめられてはとても誤魔化しきれそうにない。
僕は渋々とうなずいてみせた。
「そのとおりです。僕が王宮に行く気がないと知って、学院内だけでも交流を図ろうと思ったみたいです」
「なるほど」
宰相は軽く頷くと、今度は真剣な眼差しを僕に向けてきた。
「エドアルド様は本当に王宮にいらっしゃる気はないのですか? 陛下はエドアルド様がその気なら王宮に迎え入れると仰っていますが?」
その途端。脳裏にあの日の陛下の顔が蘇る。
生まれたばかりの僕を捨てさせておきながら、今になって僕を王宮に迎え入れるつもりだなんて、何を今更って感じだ。
大体、僕に王子として生活するなんて出来っこない。
ここは断固として阻止するぞ!




