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140 報告書(フィリップ視点)

 その日の午後、王宮の執務室でフィリップはいつものように書類に目を通していた。


 時折書類をめくる音が聞こえる程度の静けさを破るようにバタバタと足音が近付いて来た。


 ノックの音が響くと同時に扉が開けられ、息を切らした宰相が顔を出した。


 滅多に見ない宰相の慌てぶりにフィリップは目を瞬いた。


「どうした? そんなに慌てて…」


 宰相はゼイゼイと荒い息を整えると、フィリップに一通の手紙を差し出した。


 国王であるフィリップ宛ではあるが、あらかじめ宰相が目を通したものだった。


「学院から緊急の報告書が届きました」


「緊急の報告書?」


 学院は国が運営しているため、国王が名誉学院長として名前を連ねている。


 定期的に報告書は届くが、こんなふうに緊急の報告書が届くのは初めての事だった。


 先に目を通した宰相がこれほど慌てて届けに来たところを見ると、よほど大変な事が起こったらしい。


 フィリップはドキドキしながら宰相から報告書を受け取った。


 恐る恐る報告書を開いて目を通していく。


『本日、お昼休憩中に学院の食堂内にジャイアントモールが出現。居合わせたエドワード王子、エドアルド・エルガー男爵令息によって討伐されました。エドワード王子にお怪我はありません。また、ブライアン・アルドリッジ公爵令息、クリフトン・ダウナー公爵令息、アーサー・コールリッジ子爵令息もその場に居合わせましたが、いずれもお怪我はありません。なお、ジャイアントモールによって破壊され、エドワード王子とエドアルド・エルガー男爵令息によって焼け焦げた食堂はマーリン先生により修復されました』


 そのような内容の報告書がオークウッド学院長の名前で書かれていた。


「ジャイアントモールだと? 学院には結界が張ってあるから魔獣の襲撃には遭わないのではなかったか!?」


 フィリップが最初に着目したのはその部分だった。


 何らかの原因で学院の結界に綻びが生じたのだろうか?


 後で王宮魔導師を派遣して学院の結界をチェックさせる事を脳裏に刻んだ。


 だが、そのジャイアントモールよりももっとフィリップの心を引きつけるものがあった。


『エドアルド・エルガー男爵令息』


 その名前が妙に引っかかった。


 あの日、無情にもサラに捨てさせた双子のうちの一人の名前と同じなのが気になった。


 確かエルガー男爵は養子を迎えたと噂に聞いた事があるが、まさか?


 おまけにエドワード王子と一緒に火魔法を使ってジャイアントモールを退治したと書かれている。


 男爵令息という立場ならそれほどの魔法は使えないはずだ。


 陞爵をのらりくらりと掻い潜っているダニエル・エルガーの実子ならば、それほどの魔法が使えるのは納得出来るが、出自のわからない養子にそこまでの魔力があるだろうか?


 …まさか?


 そんな考えがフィリップの頭をよぎる。


 宰相が慌てていたのもその場に彼の息子であるブライアンが居合わせていたからだろう。


 おまけに宰相と対立関係にあるダウナー公爵令息までもが一緒にいたとはどういった状況だったのだろうか?


 フィリップは再度報告書に目を通して、襲撃場所が下位貴族の食堂だと知った。


 なぜ、そんな所にエドワード王子達が居合わせたのだろうか?


 フィリップは最近めっきり会話をしないエドワード王子の顔を思い浮かべた。


 それと同時に、あの時捨てさせた生まれたばかりのエドアルドの顔が頭に浮かんでくる。


 何処かで無事に成長しているのだろうか。


 十年以上経ってようやくフィリップはあの時の決断を後悔しつつあった。


 どうして誰にも相談せずに自分だけで判断してしまったのだろうか?


 フィリップは報告書から顔を上げて、心配そうな目をしているサイラス・アルドリッジの顔を見つめた。


 あの時、この男に相談していれば、もっと違う選択肢があったのではないだろうか?


 フィリップは意を決して宰相であるサイラスに話しかけた。





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