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14 新しい家

 院長先生は養子縁組の書類を出してきて夫婦にサインをさせた。


 それと同時に誓約書を書かせていた。


 万が一、僕をこの孤児院に戻す事になった時は金貨を支払うというものだ。


 流石は院長先生。


 口約束だけで終わらせるつもりはないらしい。


 手続きが終わると院長先生は満面の笑みで僕を夫婦に手渡した。


 奥さん、もとい母上がおっかなびっくり僕を抱っこする。


「まあ、結構重たいんですね」


「どれどれ。…いや、そうでもないぞ」


 父上が、母上から僕を受け取って軽々と僕を抱き上げる。


 そりゃ、男の方が女より力が強いんだから、そう感じるのは当たり前だと思う。


「それではこれで失礼します」 


 父上に抱っこされたまま僕達は院長室を後にする。


 見知らぬ夫婦に連れて行かれる僕を見て、孤児院の子供達は何が起こったのか察したようだ。


「エド、行っちゃうの?」 


「バイバイ、エド」


「もう戻って来る事がないようにな!」


 いや、それフラグだからね。


 孤児の僕には持って行く荷物なんて何もない。


 僕は着の身着のまま、孤児院を出て、門の外に停めてある馬車に乗り込んだ。


 父上の膝の上に抱っこされた僕の頭を隣に座った母上が優しく撫でる。


「綺麗な顔をしているわね。大きくなったらきっとハンサムになるわ」


 そう言われたけれど、母上の美の基準がわからないので、話半分に聞いておこう。


 第一、僕は未だに自分の顔がわからない。


 孤児院では鏡なんて置いてないからだ。


 院長先生によると「遊んでる最中に割ってしまうかもしれない」からだそうだが、ただ単にケチっているだけだろう。


 父上達の家に行けば、鏡が見つかるだろうか?


 父上の抱っこの安定感と、馬車の揺れで僕はコクリコクリと船を漕ぎ出す。


 やがて父上から誰かに手渡された感触に目を開けると、ぽっちゃりとした中年の女性の顔が目に入った。


「おや、エドアルド様。お目覚めですか?」


 寝起きのぼんやりとした頭で、その女の人をじっと見つめると、ニコッと笑顔を返された。


「今日からエドアルド様のお世話をさせていただくハンナです。お部屋に行きましょうね」


 そこで僕は新しい家に着いたのだとわかり、キョロキョロと辺りを見回した。


 既に屋敷の中だったようで、ハンナは僕を抱っこしたまま廊下を進んでいく。


 いくつかの扉を過ぎた後、ようやくハンナは立ち止まりそこの扉を開けた。


「アー(うわぁ~)!」


 思わず叫んじゃうほどの豪華な部屋だった。


 大きなベビーベッドが置いてあり、テーブルセットにドレッサーまでも置いてある。


 そう、鏡があったんだよ。


 僕がドレッサーの方に手を伸ばすと、ハンナは僕の意図を察してくれたようでそちらの方へ僕を連れて行ってくれた。


「鏡が気になるんですか? …ほら、エドアルド様が映っていますよ」


 ドレッサーの鏡を覗くと、そこにはハンナに抱っこされた男の子が映っていた。


 よくラノベに出てくる王子様のような金髪碧眼の赤ん坊がそこにいた。


 前世での黒目黒髪の顔を見慣れていた僕としては、とても今鏡に映っているのが自分の姿だとはにわかには信じ難い。


 けれど、僕が右手を差し出せば、鏡の中の赤ん坊も同じように、右手を差し出してくる。


 それに僕を抱っこしているハンナも鏡に映っているのだから、鏡の中の赤ん坊は紛れもなく僕である。


 確かに赤ん坊にしては綺麗な顔をしているとは思うけれど、この顔のまま大きくなれるのだろうか?


 大きくなって『子供の頃は可愛かったのに…』なんてがっかりされたりしないかな?


「鏡が気に入りましたか? もっと見せてあげたいのですが、先にお召し替えをしましょうね」


 そうハンナに言われて僕は鏡の中の自分の服装を確認する。


 孤児院で使い古されてきた子供服だ。


 最近まで着ていた服が小さくなり、一回り大きなサイズで長い袖が袖口で折ってある。


 ハンナは床に敷かれているフカフカのカーペットの上に僕を降ろすと、壁際の扉の方へと向かった。


 ハンナが扉を開けるとそこにはたくさんの子供服が掛けられている。


 ポカンと口を開けて見ていると。ハンナはその中の一着を出すと僕の方に戻ってきた。


「そう言えばオムツも替えないといけませんね」


 ハンナは僕をその場にコロンと寝かせると、僕が履いているズボンを脱がせた。


 テキパキとオムツを換えると今度は着換えだ。


 ハンナは僕の着替えもさっさと終わらせると、再びカーペットの上に僕を座らせる。


 手際が良い所をみると、誰かの乳母をやっていたかハンナに子供がいるかのどちらかだろう。

 

 ハンナは僕の前に積み木を置いた。


 ここは遊び方を知らないフリをするのが一番だ。

 

 僕は両手に積み木を持つとそれにカンカンと打ち鳴らした。


 ハンナはそれを止める事もなく笑いながら見ている。


 こうして僕の二度目の新しい生活が始まった。




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