133 フェニックス
「エドワード王子。僕と手を繋いでもらえますか?」
「手を繋ぐ?」
いきなりの申し出にエドワード王子は軽く困惑しているようだ。
今思えば、僕達はお互いの身体に触れた事がなかった。
生まれた時も一緒に寝かされる事もなく、引き離されてしまった。
学院で出会ってからも、会話は交わしたけれどほんの少しでも手を触れた事すらない。
そんな僕達が手を繋いだら何が起きるのだろうか?
オーウェンは興味深そうな目で僕達の様子を見ている。
僕が右手を差し出すとエドワード王子もおずおずと右手を出してきた。
ぎこちない動きのまま、僕達の指先が触れ合う。
パチッ!
お互いの指先が触れ合った途端、静電気が走ったような衝撃に慌てて手を引っ込める。
そんな僕達の様子を見てオーウェンが意味深な笑いを浮かべている。
何が起きるか知っているのならちゃんと教えてくれたって良いじゃないか!
心の中でオーウェンに悪態をつきつつ、僕達はもう一度手を繋いだ。
今度は躊躇っているエドワード王子の手を僕が握りしめるように勢いよく手を取った。
今度は静電気が起こる事もなく、普通のエドワード王子の手を握る事が出来た。
…あれ? さっきの静電気みたいな衝撃は何だったんだろう?
だが、僕達が手を繋いだ所で何も起きる気配はない。
チラリとオーウェンに視線を送ると、オーウェンは「やれやれ」と言わんばかりに肩を竦めた。
「仕方がありませんね。今回は特別ですよ。その状態で『ファイア』を唱えてごらんなさい。ただしニーズヘッグにぶつけるのではなく、バリアの外側に押し出す形にしてください」
何だって?
『ファイア』でニーズヘッグを攻撃するんじゃないのか?
そこでフェニックスは炎の中から蘇る、という伝説を思い出した。
つまり、僕達が出した『ファイア』からフェニックスが蘇るという事だろうか?
エドワード王子を見やると彼は大きく頷いてくれた。
僕達は手を繋ぐと、繋いでいない方の手をバリアの外側に向けた。
「「ファイア!」」
僕達の声が重なり、バリアの外側に大きな炎の塊が飛び出す。
「キュゥー!」
甲高い鳴き声が聞こえて来たかと思うと、炎の中から金色の鳥が飛び出してきた。
小さかった身体が徐々に大きくなり、ニーズヘッグに立ち向かえるだけの巨大な鳥へと変貌する。
フェニックスは炎から飛び出すとクルリと空中を一回転した。
そしてそのまま急降下でニーズヘッグめがけて突っ込んでいく。
ニーズヘッグに近付くとフェニックスは口を大きく開け、そこからニーズヘッグに向かって火を吹いた。
「ぎゃあああっ! 熱い! 熱い!」
ニーズヘッグの身体が炎に包まれる。
ニーズヘッグは身体を揺らして地面を転がり、身体についた火を消そうと藻掻く。
だが、火が消えるより早く、再びフェニックスがニーズヘッグめがけて火を吐き出す。
「ぎゃあああっ! エドアルド様! 助けてください!」
ニーズヘッグの口からジェイコブの声で助けが求められるが、耳を貸してやるつもりはない。
そもそもジェイコブは僕の仲間じゃないし、エドワード王子を排除しようと企んでいるのなら僕にとっては敵でしかない。
だが、このままジェイコブの断末魔を聞いているのもあまり良い気分ではない。
「フェニックス! 早くニーズヘッグにとどめを!」
僕に出来る事はさっさとニーズヘッグを片付けて、ジェイコブの魂をニーズヘッグから解放してやる事だけだ。
「キュゥー!」
僕の呼びかけに応えるようにフェニックスは鳴き声をあげると、今までとは比べものにならないくらいの大きな炎をニーズヘッグへと吐き出した。
「ぎゃあああ…」
ジェイコブの叫び声がだんだん小さくなっていき、ニーズヘッグの身体は全て炎に包まれた。
だが、あれだけの炎があがっているにも関わらず、ちっとも熱くないのはバリアのおかげなんだろうか?
そんな事を考えながら僕達はニーズヘッグの身体が燃えていくのをじっと眺めていた。




