132 反撃
途方に暮れた僕はオーウェンに助言を求めようと視線を投げるが、オーウェンは何も答えようとしない、
オーウェンからヴィンセントに視線を移しても、やはり何の返事も得られない。
諦めてエドワード王子を見ると、エドワード王子も途方に暮れたような目で僕を見ていた。
オーウェンは僕達に何をさせたいのだろうか?
二人で魔法を唱える?
だが、一緒に魔法を使った所で相乗効果があるとは思えない。
あれこれ考えを巡らせていると、オーウェンがポツリと呟いた。
「あの大蛇が何か知っていますか? あれはニーズヘッグですよ」
ニーズヘッグ?
たしか北欧神話で世界樹の根に齧り付いているという蛇の事だったな。
『腐敗』や『死』を表す象徴とされているんだっけ。
そんな相手に立ち向かえる魔法と言ったら『光魔法』くらいのものだろうか?
「エドワード王子。光魔法は使えますか?」
「ああ、使える。全属性の魔法が使えるからな。エドアルドだってそうだろう?」
エドワード王子に確認されて僕はコクリと頷いた。
アーサーとブライアンが聞いているけれど、今は非常時だ。細かい事は気にしていられない。
「あの大蛇がニーズヘッグだとしたら、対抗出来るのは光魔法だけだと思うんです。試してみませんか?」
「いつまでもここにこうしているわけにはいかないからな。やってみよう」
エドワード王子は魔法を唱えようとしたが、何かを思い出したようにオーウェンを振り返った。
「オーウェン。このバリアを張ったままでこちらから魔法が出せるんですか?」
オーウェンは銀髪をかきあげながら優雅に微笑んでみせる。
「勿論ですとも。向こうからの魔法は防ぐけれど、こちらからの攻撃は通してくれる優れものですよ」
オーウェンは得意満面でツンと顔を反らしているが、今ここで威張る事ではないと思う。
得意満面の顔になっているオーウェンは放っておいて今はニーズヘッグを退治するのが先だ。
エドワード王子もオーウェンを無視してニーズヘッグに魔法を繰り出した。
「ホーリーランス!」
光輝く槍が何本もニーズヘッグに向かって降り注ぐ。
だが、その槍は大蛇の鱗によって全て弾かれていた。
「効かないか! それならばこれはどうだ? ホーリーフレア!」
エドワード王子が今度は聖なる炎をニーズヘッグに向けて放った。
だが、これも先ほどの「ファイア」と同じように何の効果もなかった。
僕も思いつくままに光魔法を繰り出すが、一向にニーズヘッグにダメージを与えられない。
このままでは魔力切れになってしまいそうだ。
打つ手がなくオーウェンとヴィンセントをチラリと見るが、二人ともすっかり高みの見物を決め込んでいる。
何かヒントくらいくれても良さそうなのにな。
「どうしました? もう終わりですか? エドアルド様、そんな役立たずはあなたには相応しくありません。さあ、私と一緒に新しい王国を作りましょう」
『新しい王国』って、そんな大蛇の身体で一体何が出来るって言うんだよ。
そもそもあんな大きな大蛇を相手に僕達が戦えるわけがない。
同じくらいの大きさじゃないと不公平だよ。
…同じ大きさ?
もしかして、あのニーズヘッグと渡り合える大きさの何かを召喚しろって事なのだろうか?
そう考えて僕はチラッとオーウェンに視線を向けた。
オーウェンは僕の考えがわかったのか、軽く口角を上げている。
ニーズヘッグと対になる幻獣と言えば何だろうか?
『腐敗』『死』の対義語と言えば『再生』『不死』と言った所だろうか?
そうなると呼ぶべき幻獣はフェニックスとなるが、どうやって呼ぶのだろうか?
不意にオーウェンが自分の両手の指を胸の前で組んだ。
何だ?
お祈りでもするのか?
…いや、あれは僕にヒントをくれたんだ。
僕は考えを実行すべく、エドワード王子に向き直った。




