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130 大蛇

 大蛇は口からチロチロと赤い舌を揺らしながら徐々にこちらに近付いてくる。


 その大きさは直径1メートルくらいはありそうな巨体だ。


 人間一人くらいは簡単に丸呑み出来るだろう。


 真っ黒な身体に異様に赤く光る目が僕達の姿を捉えている。


 これだけの騒ぎになっているのにも関わらず、教員が誰もここに来ないのは何故だろう?


 他の生徒達の誘導で手が離せないか、食堂には誰も残っていないと思われているか…。


 僕達は見捨てられてはいないと思いたい。


 避難した先でエドワード王子がいない事に気付いたら探しに来るかもしれないな。


 いや、頼むから早く来て欲しい。


 だが、教員の面々を思い出した所で、それはあまり期待出来ないだろうと悟った。


 教師達の中でこの大蛇と渡り合えそうなのはマーリン先生とヴィクター先生、つまりオーウェンとヴィンセントだけだ。


 その二人が学院にいない時を見計らってこの大蛇が現れたとしたら、最初から仕組まれた可能性が高い。


 狙いはエドワード王子だろうか?


 だが、その目的は何だろう?


 いや、今はそんな事はどうでもいい。


 この場を切り抜ける事が先決だ。


 大蛇と戦おうにも僕達に武器はなく、全くの丸腰だ。


 唯一、戦えるとしたら魔法だけだろう。


 あまり人前で使いたくはないのだが、この際そんな贅沢は言っていられない。


 それに僕の魔法が実戦で何処まで通用するのか試せる貴重な機会だ。これを逃す手はない。


「エドワード王子、早くお逃げください。ここは僕が食い止めます!」


 エドワード王子を庇うように一歩前に出たのだが、何故か逆にエドワード王子が僕を後ろに庇う。


「駄目だ! せっかくこうして会えたのにエドアルドだけに負担はかけられない! ここは私が食い止める!」


 エドワード王子の言葉にブライアンが目を剥いているけれど、見なかった事にしよう。


 エドワード王子と僕がお互いを庇いあってあるうちに、大蛇は更にこちらへと向かってきた。


 ガシャーン!


 大蛇が掃き出し窓を破って食堂に侵入してきた。


 割れたガラスの上を何事もないかのようにこちらへ這ってくる。


 ジリジリと迫ってくる大蛇に押される形で僕達は後ろへと後退する。


『エドワード王子。ひと思いに丸飲みにしてやろうか? それとも八つ裂きにしてしまおうか?』


 大蛇が話しかけてきたが、その声にはどことなく聞き覚えがあった。


 この声は…ジェイコブ?


 そう思ったが、すぐにその答えを僕は否定する。


 いや、ジェイコブは僕が浄化させたはずだ。


 それに、あの時はオーウェンも手助けをしてくれていた。


 あの浄化が失敗したとは思えない。


「お前は誰だ! どうして私の命を狙うんだ!」


 大蛇は赤い舌を揺らしながら、その赤い瞳を不気味に輝かせる。


『私の名前はジェイコブ…。かつて双子王子の一人を排除して処刑された者』


 やはりジェイコブだったのか。


 だが、どうして浄化したはずのジェイコブが再び復活したのだろうか?


『不思議そうな顔をしているな、エドアルド様。浄化したはずの私がどうしてこんな姿になっているのかわからないのであろう』 


 大蛇はチロチロと赤い舌を揺らしながら語りかけてくる。


 不意に大蛇とジェイコブの面影が重なった。


『浄化された時、最後の小さな一欠片をあの方が拾い上げてくださった。そして私にこの身体を与えてくださったのだ』


 あの方?


 一体誰の事なんだろうか?


 ただの人間ではない事は明白だ。


 普通の人間があのような大蛇の身体を魂の一欠片に与えられるとは思えない。


 何か大きな力が働いている。


 そう思わざるを得なかった。




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