126 特別ゲスト
「そこにいるんでしょう? 隠れていないで出て来たらどうですか?」
オーウェンはエドワード王子に向かって指差した。
「え?」
指差されたエドワード王子が困惑したような顔で、視線をチラリと僕に投げかけてくる。
だが、そんな目を向けられても僕にも何がどうなっているのかサッパリだ。
「オーウェン、一体何を…」
そう言いかけた所で、エドワード王子の後ろに黒い影が揺らいだように見えた。
黒い影は徐々に人の姿へと変化していき、やがて一人の男性がそこに現れた。
だが、その身体が半分透けて見えるという事は生きた人間ではないという事だろう。
エドワード王子はいきなり現れた男性の身体が透けて見える事にギョッとしている。
もしかして幽霊と呼ばれるものだろうか?
その顔はどことなくヴィンセントや僕達に似ている。
「自己紹介をしていただけますか? エドアルド君とエドワード王子にはあなたが誰だかわからないようですからね」
オーウェンに促され、その男性は軽く頷いた。
「私の名前はブレンドン・アルズベリー。かつてこの国を治めていた王だ」
名前を告げられて僕は頭の中に疑問符が浮かんだ。
ブレンドン?
もしかして二百年前の双子王子の生き残った方だろうか?
だが、普通は殺されたブランドン王子の方が幽霊になって出てくるんじゃないのか?
どうして王位を継いだブレンドン王がこうして幽霊になって現れるのだろうか?
ブレンドン王が名乗るとオーウェンは大げさにため息をついてみせた。
「あなたがエドワード王子に憑いていたせいで私の魔法が効かなかったんですね。クリフトンにも多少の影響を及ぼしたんでしょう?」
オーウェンに指摘され、ブレンドン王はコクンと頭を振る。
「そうだ。私はブランドンを殺したジェイコブが許せなかった。二人で王位を継いでずっと一緒に暮らそうと約束をしていたのに…。あの男が私からブランドンを奪ったのだ!」
二人で王位を継ぐ?
そんな事が可能なのだろうか?
そんな疑問が浮かんだけれど、当人達が決めていたのならそれなりにやりようがあったのだろう。
それならそれで早めに周知させておけば、ジェイコブも先走ったりしなかったんじゃないか?
それとも知っておきながらブランドン王子を毒殺したというのなら、ジェイコブの処刑も当然だろうな。
だけど、どうしてブレンドン王は幽霊になったりしたんだろう?
「ジェイコブを処刑したんですから、そこでブレンドン王の怒りも収まったんじゃないんですか?」
そんな疑問をぶつけてみると、ブレンドン王は悲しそうな目を僕に向けた。
「ジェイコブを処刑した所でブランドンは帰ってきたりはしない。ブランドンがいなくなった世界は私にとっては生き地獄のようなものだった。だから私はこの世に残る事にしたんだ。再び双子王子が生まれた時、同じ過ちが繰り返されないようにするためにね」
同じ過ちって…。
結果的に僕は殺されはしなかったものの捨てられてんだけれど、それはそれで良いんだろうか?
そんな僕の考えが伝わったのか、ブレンドン王が軽く微笑んだ。
「エドアルドは捨てられてしまったけれど、あのまま王宮にいて後継者争いが起きるより、王宮から離れた方が良いと判断したんだ。エドアルドは王位なんて興味がなかっただろう?」
ブレンドン王に本音を指摘されて僕は返す言葉もない。
「王宮から離れたけれど、兄弟と知らずに過ごすよりは交流を持った方が良いと思ってエドワード王子に憑いていたんだ。学院にはオーウェンもヴィンセント初代王もいらっしゃるからね」
ブレンドン王に微笑まれてオーウェンは口をへの字に曲げた。
良いように利用されたみたいで悔しいのだろうか?
「私から見事に気配を消していましたからね。ジェイコブの魂も消す事が出来て満足しているんじゃないですか?」
オーウェンの憮然とした顔とは対照的にブレンドン王は晴れやかな顔をしている。
「ああ。まさかジェイコブまでこの世に蘇ってくるとは思っていなかった。だがオーウェンとエドアルド君のおかげで積年の恨みも晴れた。これでようやくブランドンの所に行ける…」
そう言うブレンドン王の身体が徐々に薄くなっていく。
「…ありがとう」
その言葉が聞こえた時にはブレンドン王の姿は影も形も無くなっていた。




