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125 願望

 僕は深く頭を下げているエドワード王子の肩を掴んでグイと引き上げる。


 少し戸惑ったような表情をしたエドワード王子が僕を見つめる。


「エドワード王子が謝る必要はありません。捨てられた事はちょっと残念だけど、あのまま王宮にいて王子として生活しなくて良かったと思っているんです。何しろ前世では普通に庶民として生活していましたからね」


『庶民』とは言っても親がそこそこ大きな会社を経営していたから、割と裕福な方だったと思う。


 もっともその立場も双子の弟に奪われたわけではあるが、それは今のエドワード王子には関係のない話だ。


 それでもなお、エドワード王子は納得のいかないような顔をしている。


「それでもやはり実の父上から捨てられてショックを受けたのではないか? …そう言えば、母上はどうして父上に何も言わないんだ? 自分が産んだ子供が捨てられたというのに!」


 あちゃー!


 やっぱり今度は王妃の方に矛先が向かったか。


 母親ですら僕を見捨てたと知ったらエドワード王子はどうするんだろうか?


 僕がどう答えようかとチラリとオーウェンに助け舟を求めたが、優雅な笑みでバッサリと切り捨てられた。


「エドアルド君。この際ハッキリと言っておしまいなさい。王妃とどんな会話を交わしたのかを」


 そう言ってくる所をみると、オーウェンは僕と王妃がどんな会話を交わしたのかを知っているんだろう。


 まあ、自分が産んだ子を捨てられて放置している時点で母親として失格なんだろうから、これ以上エドワード王子からの評価が下がる事はないだろう。


 僕は軽く息を吐くと三年前に王妃に会った時の事を話した。


「王妃様はご自分が双子を産んだ事をご存じありませんでした。偶然街で僕を見かけて、それでご自分が双子を産んだのではないかと思い、僕に接触してきたんです、その際『この国の王子はエドワード一人だ』と言われました。『双子だったと公表するつもりもない』とも」

 

 途端にエドワード王子の顔が苦いものを噛んだような表情になる。


「母上は、どちらかと言えば父上を嫌っている。だから君を王宮に引き取りたいとは思わないのだろう…」


「嫌いならどうして結婚を…」 


と、言いかけて思い留まった。


 貴族社会なんて大体は政略結婚が主流なんだろう。


 そんな中、好きでもない男の子供を産まされるなんて苦痛以外の何物でもないだろう。


 母親だからって無条件で自分が産んだ子に愛情を注げるなんて単なる綺麗事でしかない。


「父上も母上も君に相当の無体を働いている。やはり両親に代わって謝罪させてくれ」


 そう言ってエドワード王子は再び深々と僕に頭を下げる。


「だから。そういうのはいりませんってば! 顔を上げてください!」


 僕は再びエドワード王子の顔を上げさせた。


「僕は今の生活に満足しているんです。それに謝ってほしいのは当人達でエドワード王子ではありません。もっとも今更あの二人とは顔を合わせたくはありませんけどね」 


「…エドアルド」 


 ここに来てようやくエドワード王子は僕の名前を呼んでくれた。


 その事に気付き僕が目を見張るとエドワード王子は少し照れたような尾をした。


「そう言えば『エドアルド』という名前は誰が付けたんだ? もしや今の養父母殿が付けたのか?」


「いえ、この名前は国王陛下が付けてくれました」 


「そうか。それで二人の名前が似ているのか…」


 エドワード王子はしみじみと呟くと真っ直ぐに僕の目を見据えてきた。


「本当に王宮に来るつもりはないのか?」


「ありません。僕はこのままエルガー家にいて将来は冒険者になりたいんです。だから『双子』だと公表もしてほしくありません」 


「そうか。では、私と交流するのも駄目だろうか?」


 突然、エドワード王子にすがるような目をされて僕は「うっ!」と言葉に詰まる。


 自分と同じ顔でそんな表情をされては断るのが難しい。


 だが。学院内でエドワード王子と交流すれば悪目立ちするに決まっている。


 だからと言ってここでバッサリ切り捨てるのも可哀想だ。


「…時々であれば…」


 圧に負けてポツリと呟くとエドワード王子の表情がパアッと明るくなった。


「ありがとう。クリフトンにはエドアルドの事は黙っておくように伝えるよ」


 あー、まだクリフトンがいたな。


 どうせならここに呼んだ方が一気に片付いて楽なのにな。


 僕とエドワード王子の話が終わったタイミングでオーウェンが声を上げた。


「それではここで特別ゲストにこ登場いただきましょうか」


 特別ゲストって誰だ?




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