12 再び孤児院
院長先生は僕を抱いたまま院長室を出ると、通りすがりに会ったルイーズ先生に僕を預けた。
「ピーター様をお見送りしてくる。エドアルドの服を着替えさせてやってくれ」
そうれだけを告げるとさっさと玄関の方へ行ってしまった。
いきなり僕を抱っこさせられたルイーズ先生は、事情がわからず困惑した表情を浮かべていた。
けれど、僕がよあまりにもヒラヒラした華美な服を着ているのを見て衣装部屋へと向かった。
「エドはちょっと見ない間に大きくなったわね。エドが着られる大きさの服があったかしら?」
ルイーズ先生は衣装部屋に入ると僕を床に寝かせて、衣装ダンスの中をあさりだした。
僕はコロンと寝返りを打つとルイーズ先生の後ろ姿をじっと見つめた。
やがてお目当ての服を見つけ出したルイーズ先生は振り返って「あら」と声をあげる。
「エドは寝返りが出来るようになったのね。お座りが出来るようになったら皆と一緒に遊ばせてもいいんだけれど、まだ難しいかしらね」
ルイーズ先生は僕をまた寝転がせると、僕の華美な服を脱がせ始めた。
「まあ! こんな上等な服を着せてもらえていたなんて…。それなのにどうしてまたここに連れてきたのかしら?」
ルイーズ先生の疑問に答えるべく僕は「アー、アー」と喋ってみるが、当然伝わるわけがない。
「あら、おしゃべりも上手になったわね。もっとお話してごらんなさい」
と、完全に赤ちゃん扱いである。
まだ五ヶ月の赤ん坊なんだから当然か。
着替え終わった僕を抱っこすると、着ていた華美な服を持ってルイーズ先生は衣装部屋を出る。
そこへ大きな箱を抱えた院長先生が玄関から戻ってきた。
「ルイーズ先生。エドを向こうへ連れて行ったら院長室まで来てくれ。その服も一緒にな」
「はい、わかりました」
ルイーズ先生は子供達がいる部屋へ僕を連れて行くと、カミラ先生と一緒に院長室へと向かった。
これから院長先生からどうして僕がここに戻って来たのか説明されるんだろう。
子供達はルイーズ先生が僕を連れてきたのを見て目を丸くしていた。
「あれ? もしかしてエド?」
「エド? 戻ってきたの?」
「わあっ! エドが帰ってきた!」
皆、ベビーベッドを取り囲んで口々に僕を歓迎してくれる。
相変わらず皆の輪の中に入らず、遠巻きに僕達を眺めている子もいるけれどね。
久々の賑やかな子供達の声に少々うるさいと感じつつも、どこか嬉しさを隠せなかった。
何しろ養子先では大人しかいないから、屋敷の中は妙に静かだったんだよ。
僕が普通の赤ん坊なら、泣き喚いたりする声が屋敷内に響き渡ったりするんだろうけれど、至って大人しいものだったからね。
「エド、帰ってきたの? また今日からエドのお世話をするのかしら?」
アイラがベビーベッドから僕を抱き上げてくれる。。
久しぶりのアイラの抱っこに僕はむちゃくちゃ安心した気分になる。
「アー、アー(アイラ、久しぶり~)」
そう言ったつもりなんだけれど、ちゃんと伝わっただろうか?
ほどなくしてルイーズ先生が院長室からこちらに戻ってきた。
「みんな! 今日からまたエドがここに住みますからね。今まで通り仲良くしてね」
流石に「養子縁組を解消された」とは言えないよね。
小さい子供達には意味が理解出来ないだろうからね。
アイラとミアには後でカミラ先生かルイーズ先生から説明があるんだろう。
それにしても…。
永遠の別れのように送り出してもらったのに、またここに出戻ってくるなんて恥ずかし過ぎる。
こうなるとわかっていたら、もうちょっと大人の対応をしたんだけれどね。
こんな赤ん坊の形をして「大人の対応」も何もないけれどね。
こうしてまた、この孤児院での生活が始まったんだけれど、そんな僕の元にまたしても養子縁組の話か持ち上がった。