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115 クリフトン

 目を開けたクリフトンは自分が地面に倒れている事に気付いて慌てて起き上がった。


 すかさず僕はクリフトンに声をかける。


「あの、大丈夫ですか?」


「え? 僕は一体ここで何を?」

 

 体に付いた土を払いながらクリフトンは僕を見て怪訝そうな顔で尋ねてきた。


 どうやら自分が僕をここに連れてきた事を覚えていないようだ。


「あなたが向こうから歩いてきて急に倒れたと思ったら、なかなか立ち上がられないので誰か助けを呼ぼうかと思っていたんですが…。気が付かれて良かったです」


 僕の説明にクリフトンはますます不可解そうな顔をしてみせる。


「倒れた? 僕が?」


「はい」 


 クリフトンは頭に手を当てて必死で記憶を探っているようだ。


 オーウェンが何処まで記憶を改ざんしたのかわからないので、下手に口を挟めない。


「…あれ? …なんだっけ? 昨日、エドワード王子やブライアンと話をしていたのは覚えているが、その後の事は記憶にないな…」


 いきなりクリフトンの口から「エドワード王子」という言葉が出てきて僕はドキリとする。


 恐らくその時にジェイコブの魂がクリフトンの中に入り込み、僕の事を話題にしてエドワード王子達と対立をしたのだろう。


 とりあえず、僕の事は覚えていないようだからサッサとこの場からトンズラする事にしよう。


 アーサーも待たせているからね。


 まさか、もう馬車が出発したって事はないよね。


「それじゃ、僕は…」


「君は、誰?」 


 (いとま)を告げて立ち去ろうとする僕と、クリフトンの声が重なった。


 無視して悪印象を持たれるよりは、自己紹介をしてサッサとこの場を立ち去る方が賢明だろう。


「僕は一年のエドアルド・エルガーです」


「エドアルド・エルガー? …ああ、エルガー男爵家の養子の子だね。僕はクリフトン・ダウナー。同じく一年生だよ」


「あ、ども」


 わざわざ僕相手に名乗ってくれるとは思っていなかったので、簡潔な返事しか返せない。


 そもそも、貴族の中では底辺の男爵家の人間だ。


 高位貴族とのやり取りなんて皆無に等しい。


 それにしても、僕の事を認識していたなんて、そっちの方が驚きだ。


「あの、僕をご存じなんですか?」


「うん、まあね。エドワード王子の側近を目指す身としては、国内の貴族の事は把握しておかないとね」


 クリフトンの言葉に感心すると同時に脱帽した。


 まだ十歳なのに既に将来を見据えた行動をしているのだと思うと、とても同い年には思えなかった。


「あの、馬車の時間があるのでこれで失礼します」


「え? ああ、そうか。そんな時間なんだね。引き留めて悪かったね」


 僕は勢いよくクリフトンに頭を下げた。


 …が。


 勢いが良すぎたのか、奪い返した時の眼鏡のかけ方が不完全だったのか、顔を上げた時には眼鏡がずり落ちていた。


 僕の顔を見てクリフトンが驚愕の表情になる。


「き、君? その顔は?」


 ヤバい!


 僕は慌ててずり落ちた眼鏡を元に戻すと「失礼します」と言い残して走り出した。


「おい! 君!」


 背中からクリフトンの声が追いかけてくるが、僕は振り返らずに全力疾走で馬車乗り場に向かった。


 幸いクリフトンが追いかけて来る事はなかったが、僕は足を緩めずに走り続けた。


 馬車乗り場に辿り着くと、走ってきた僕を見てアーサーが目を丸くした。


「あれ? エド、何処に行ってたの? 姿が見えないから何処に消えたのか探しに行こうとしてたんだよ」


 僕はゼイゼイと荒ぶる息を整えた。


「ごめんごめん。忘れ物を思い出して取りに戻っていたんだ」


「何だ。それでそんなに慌てて走ってきたのか。一言言ってくれれば良かったのに…」


 アーサーが不満そうに口を尖らせる。


「唐突に思い出したから、声をかけそびれちゃったんだ。教室に戻る途中で言い忘れた事を思いだしたんだけど…」


 そう口籠るとアーサーはプッと吹き出した。


「エドって案外と抜けてる所があるよね」


 アーサーに笑われて僕は返す言葉もなかった。


 何しろ、たった今やらかしてしまったばかりだ。


 また一人、顔を合わせてはいけない人物が増えてしまった。


 僕は肩を落としながらアーサーと共に馬車を待つのだった。




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