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107 記憶の改ざん

 僕の目の前に現れたジェイミーはほくそ笑んだままの状態で固まっている。


 この表情から察するにアーサーに何かしらの術をかけたのはジェイミーなのだろう。


 アーサーに実際に受けた痛みよりも何倍も大きな痛みを味あわせ、それを見て笑っていたのだろう。


「ヴィーから剣術の授業の時の事を聞きましてね。何かしらの術が使われたと気付いたんですよ。人間社会には関わらないと決めていたんですが、ヴィーの子孫が絡んでいる以上、知らん顔は出来ませんからね」


 オーウェンが澄ました顔で固まったままのジェイミーの頭をチョンと小突く。


 つまり、今回の被害者が僕でなかったら放置していたという事だろう。


 ジェイミーが怪しいと分かっていても、僕だけではジェイミーを止める事は出来なかったはずだ。


 オーウェンが味方してくれなければ、僕達はこの先どうなっていたのだろうか?


 僕はほくそ笑んだまま固まっているジェイミーを見てため息をついた。


「僕達に術をかけるくらい恨んでいたなんて…。どうにかしてジェイミーと仲良くやれないものなんでしょうか?」


 僕が二人に訴えかけるとヴィンセントは嫌そうな顔で片眉を上げた。


「お前は…。自分に危害を加えてくる奴を許すと言うのか? 本当に危機管理が無いにも程があるぞ?」


 ヴィンセントに指摘され僕は「うっ!」と言葉に詰まる。


 戦後生まれが殆どを占める国で生まれて育っているから、危機管理能力が乏しいのは仕方がないだろう。


 この世界で生きていく以上、「仕方がない」で済まされない事もわかってはいるが、それでもやはり僕は人を蹴落としてまで生きたいとは思えない。


「まあまあ、ヴィー。そういう優しい所がエドアルド君の美点ですよ。…もっとも、それがいつまでも通用するとは限りませんけどね」


 オーウェンが褒めているのか(けな)しているのかわからない言葉を述べる。


 ムッとしてオーウェンを睨んでみるけれど、オーウェンは涼しい顔で受け流している。


「仕方がありませんね。可愛いエドアルド君の頼みです。聞かないわけにはいかないでしょう。少しジェイミーの記憶を改ざんしましょうか」


 記憶の改ざん?


 オーウェンはそんな事も出来るのか。


 感心した所で僕はハッと思いついた。


 それでディクソン先生の記憶を改ざんして「九九」を広めてもらう事は出来ないだろうか?


「あの、オーウェン。もし良かったらディクソン先生の記憶を改ざんして『九九』を広めてもらう事は出来ないでしょうか?」


「『九九』? …あの、呪文のようなヘンテコな計算方法ですか?」


 そう言う所をみると、陰でこっそり僕とアーサーが(そら)んじているのを聞いていたに違いない。


 ここで文句を言ってヘソを曲げられても困るので、そこは追及しないでおこう。


「はい。『九九』さえ覚えればジェイミーも計算のテストで満点を取れると思うんですよね。そうしたら僕達をライバル視しなくなるんじゃないかと…」


「わかりました。ジェイミー一人を消すくらいは何でもないんですが、エドアルド君がそう望むならそうしましょうか」


 オーウェンが再びパチンと指を鳴らすと、ジェイミーの身体は元いた位置へと戻って行った。 


「それでは記憶の改ざんを行いましょうか? ああ、エドアルド君。これ以上の面倒事は御免被りますよ」


 オーウェンがサッと手を振ると、光の粉が教室全体に舞い上がった。


 それが消えたと同時に止まっていた時間も動き出した。


 のたうち回っていたはずのアーサーが、キョトンとした顔で起き上がる。


「あれ? 何で僕は床に転がっていたんだ?」


「今、机にぶつかりそうになって避けたら転んだんだよ?」


「え? そうだっけ?」


 何処か納得がいかないような顔のアーサーだったが、すぐに「まあ、いっか」と気持ちを切り替えている。


 周りの生徒達も一瞬、不可解な表情を浮かべたがすぐに何事もなかったかのように動き出した。


 チラリと見るとジェイミーも首を捻りながらも教室を出て行った。


 僕はホッと胸を撫で下ろすとアーサーと一緒に教室を出て行った。





 誰も居なくなった教室の片隅から小さな黒い影が這い出てきた。


「危ない所だった。もう少しであのエルフに消される所だった。それにしても、もう一人のエルフが初代王の生まれ変わりで、あのエドアルドが王族の血を引いているだと? せっかく自由の身になれたのだから少し調べてみようか」


 黒い影はそのまま何処かへと消えていったのだった。






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