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10 新生活

 ガタン、と馬車が止まった揺れで僕は目を開けた。


 外から馬車の扉が開かれ、夫が先に馬車から降り、続いて僕を抱っこした妻が馬車を降りた。


「おかえりなさいませ、旦那様、奥様」


 声が聞こえた方へ顔をやると、眼鏡をかけた男性を筆頭にずらりと使用人達が並んでいた。


 皆、一斉に頭を下げて僕達を出迎えている。


「今戻った。馬車の中に荷物があるから運んでおいてくれ」


「かしこまりました」


 眼鏡をかけた男の人が合図をすると、侍従が二人、馬車の中から荷物を取り出している。


「今日からこのエドアルドが一緒に住む。部屋を整えてくれ」


「かしこまりました。すぐに手配いたします。それまでは奥様のお部屋でお待ちいただいてよろしいでしょうか?」 


「ええ、いいわ。それとエドアルドの面倒を見る者を決めておいてちょうだい」


「かしこまりました」


 夫妻の無茶振りにも一切反論せずに、眼鏡をかけた男性はテキパキと要望に応えていく。


 その手際の良さに僕はただ目をぱちくりさせるだけだった。


 その日から僕はこの家での生活が始まった。


 この夫婦は貴族らしく、屋敷には大勢のメイドや侍従が仕えていた。


 眼鏡をかけていた男性はこの家の執事だという。


 執事なんて本当にいるんだね。初めて見たよ。


 家名はわからないが夫の名前はピーターで、妻の方はマーガレットだと判明した。


 養子になったのだから、『父上、母上』と呼ぶべきだろうか?


 僕の世話はもっぱらメイドが中心になって行っていた。


 メイド達の噂話で知った事だけれど、この夫婦は結婚して十年になるのに子供が生まれなかったそうだ。


 そういう場合は親戚筋から養子をもらうのが妥当だと思うんだけれど、そこはちょっと事情があるらしい。


 何でも結婚を反対されていたのをゴリ押しで結婚したそうだ。


 それなのに子宝に恵まれなかったなんて、『それ見たことか』と言われたくないらしい。


 貴族って一夫多妻が普通だと思っていたのだけれど、そうではない夫婦もいるようだ。


 生まれて間がない僕を養子に選んだのも、自分達の実の子だと誤魔化しやすいからなんだろう。


 使用人達も夫妻の実の子のように僕の世話をしてくれている。


 けれど、うら若いメイドさんに僕のオムツを替えてもらうなんてどんな羞恥プレイだよ。


 孤児院でアイラ達にオムツを替えられていた時よりも更に恥ずかしい思いをしているなんて思わなかったよ。


 僕にミルクをくれるのもメイドさんの仕事だった。


 母上は時折僕を抱っこしに来るが、父上の方は滅多に顔を見せなかった。


 やはり、養子だからそんなに愛情を注いだりしないのだろうか。


 今のところ、虐待のような扱いは受けていないから、それなりに愛情はあるのかもしれない。





 この夫婦に引き取られて二ヶ月が過ぎようとしていた。


 僕に与えられた子供部屋に母上が訪れていた時の事だった。


 ベビーベッドに寝かされている僕の顔を母上が覗き込んできたが。その顔色が悪いのが、妙に気になった。


「アー、アー」


『どうしたの?』と問いかけているつもりだけれど、当然、まだ言葉にできるはずもない。


 すると母上はベビーベッドの横にうずくまるようにして倒れた。


「奥様! どうされました!」


 側にいたメイドが声をかけていたが、返事がないようだ。


 こういう時こそ赤ん坊である僕の出番だ。


「アーン! アーン!」


 僕はありったけの声で泣き叫んだ!


「エドアルド様!? どうされました?」


 僕の泣き声を聞きつけて執事が子供部屋に入ってきた。


「奥様! どうなさいました!?」


 母上が倒れているのを目にした執事が駆け寄ってくる。


「わかりません! 突然倒れられて…」


 メイドがオロオロと事情を説明する。


「とりあえずそこのソファーに寝かせましょう」


 母上はソファーに寝かされ、すぐに医者が手配された。


 父上も駆けつけて心配そうに母上の手を握っている。


 その頃には母上も意識を取り戻したようだが、相変わらず青い顔をしている。


 やがて医者が到着して母上の診察が始まった。


 僕もベビーベッドの上で寝返りを打って、母上の様子を見守った。


 やがて診察を終えた医者が告げたのは、驚きの言葉だった。


「おめでとうございます。ご懐妊です」




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