夢の著作権
プロローグ
私は、夢を見るたびにアイデアが生まれる。
それは単なるインスピレーションではない。夢の中で見た世界、登場するキャラクター、展開されるストーリー──それはあまりにも鮮明で、まるで誰かが私に見せている映画のようだった。そして、私はそれを小説に書き起こすことで生活している。
だが、ある夜、奇妙な夢を見た。その夢の中で、見知らぬ男が私の前に現れ、こう言ったのだ。
「あなたは、私たちの世界を盗んでいる。」
タイトル: 夢の中の著作権
第一章: 奇妙な訪問者
夢の中で男はスーツ姿だった。端正な顔立ちだが、目はどこか冷たい。彼の背後には、青白い霧が広がり、そこに立つ建物や人々の輪郭はぼんやりと揺らいでいる。
「盗む? 私が?」私は反射的に答える。
「そうだ。君がこれまでに書いたすべての物語、それは私たちの世界から持ち去ったものだ。」
彼の言葉を理解するまでに少し時間がかかった。
「待ってくれ、それはただの夢だろう? 夢で見たことを小説にするのは犯罪じゃない。」
男は微笑んだ。その微笑みには、皮肉と怒りが込められていた。
「君の世界ではそうかもしれない。しかし、ここ、“夢界”では違う。ここに存在するものすべてには著作権がある。そして君は、それを無断で利用している。」
第二章: 夢界の裁判
気づけば私は巨大な法廷の中にいた。夢界の裁判所だという。壁は星空のように輝き、天井からは巨大なペンが吊るされている。傍聴席には、私がこれまでに夢で見たキャラクターたちが座っていた。
「被告、ナオト・タカシマ。」裁判官が冷徹な声で告げる。彼は大きな羽ペンを持ち、それで空中に文字を描いていた。
「あなたはこれまで、私たちの世界から物語、キャラクター、設定を無断で持ち出し、現実世界で商業的利益を得た。その行為は夢界の著作権法第13条に違反している。罪状を認めますか?」
「待ってくれ!」私は叫ぶ。「それが本当に現実の世界と繋がっているのか証明してくれ!」
裁判官は一瞬だけ私をじっと見た後、手を振った。すると、空中に私がこれまで書いた小説の一節が映し出される。そして、それと並行して夢界の風景が映る。全く同じだった。
第三章: 原作者たち
裁判で私は、驚くべき事実を知らされる。この世界には「原作者」という存在がいるということだ。彼らは夢界に住む者たちであり、彼らが創造した風景や物語が人間の夢に流れ込むのだ。
「君が見た夢は、私たちの創作の結果だ。」スーツの男、夢界の弁護士であるマリウスが言う。「それを盗んで、さも自分が創ったもののように振る舞うのは立派な犯罪だ。」
私は反論しようとしたが、彼らの理論は筋が通っていた。夢界は私にとってただの空想の世界だと思っていた。だが、それは現実と同じように創造と所有が存在する世界だったのだ。
第四章: 選択
裁判は長引き、判決が下される直前に、マリウスは私にある選択肢を提示した。
「君がこれからも夢を見続け、物語を書くことを許される方法が一つだけある。」
「何だ?」
「ここに住め。」
「……住む?」
「君の魂をこの世界に捧げろ。そうすれば君は我々の仲間となり、自由に創作ができる。それが嫌なら、現実世界での君の作品はすべて抹消され、夢を見ることも二度とできなくなる。」
最終章: 私の決断
私は迷った。夢がなければ、私の創作は終わる。だが、この世界に住むということは、現実世界のすべてを捨てることを意味する。
結局、私はこう答えた。
「現実世界に戻るよ。」
マリウスは静かに頷いた。
「だが君は、夢を見るたびに罪悪感を覚えることになるだろう。それが君にとっての罰だ。」
エピローグ
目を覚ますと、ベッドの中だった。だがそれ以来、夢を見るたびにあの裁判の光景を思い出す。夢から生まれる物語を書きながら、私はいつも問う。
それは本当に「私のもの」なのだろうか、と。
おわり