欠点のない女の子
カップルがカフェでお話をしていた。
途中で、彼氏が自分の信念を彼女に語り始める。
彼女の反応は、彼が期待したものではなかった。
欠点のない女の子
第1章
ぼくは目の前のロイヤルミルクティーが冷めるのを待っていた
テーブルの向かいの女の子は、バナナジュースをストローで
混ぜている
ぼくは言った
「だれにだって失敗はある。でもそこで人生が終わるわけじゃない」
彼女は、うんうん、とうなずきながら、リップがつかないように
ストローでバナナジュースを口に含んだ
「失敗してからが始まりなんだ。失敗からどれだけ学び、成長できるか
多くの大人は、失敗は欠点を克服するチャンスって事に気がつかない」
彼女は、コートを脱ぎイスにかけ、白いセーター姿になった
店内はコートなんていらないくらい、じゅうぶん暖かい
僕は続けた
「欠点のない人なんていないんだから。でも、欠点を少しずつ克服する事は
できる。成長していくことができる」
彼女は言った
「わたし、欠点ないけど?」
僕は彼女が何を言ったのか一瞬分からず、あたまが混乱した
「えっと、つまりきみには欠点が何にもないってことなのかな」
「ないの」
彼女は細身で、セーター姿になったからウエストのくびれや胸や
身体のラインがはっきり分かるようになった
白いセーターを着た彼女は、とても清楚な雰囲気になった
バレンタインの前日、チョコレートを好きな男の子のために
かわいいエプロンをかけて作りそうな雰囲気があふれている
それでも何か欠点はあるはず
僕は、ストレートの黒髪に白のセーター姿の彼女にだまされそうになったが
気を取り直した
どうしても胸に目がいってしまう
「なにかしら欠点はあるんじゃないかな?
時間にルーズだとか、人の気持ちを傷つけてしまったとかさ」
「あなたとの約束でわたしがあなたを待たせたことある?」
「そう言えばないね」
彼女はいつもぴったり10分前には約束の場所にいる
彼女は言った
「わたし欠点ないの」
ぼくは彼女の欠点を探した
彼女は言った
「わたしがあなたの気持ちを傷つけたことってあるの?」
「それはないけどさ」
「わたしの優しさってあなたには物足りない?」
ぼくは言った
「じゅうぶんやさしいです」
「ほら。わたし欠点ない」
「でも、たとえば人見知りがあるとか?」
「数回会っただけなのに、一緒に歩いてたら手をつないできたの
あなたでしょ
でもわたしは優しいし、ひとの気持ちを大切にできるから
握りかえした。思いやりと気配りよね」
彼女は言った
「そのミルクティー冷めるよ」
ここのカフェは静かにジャスを流している
今聴こえるのは
「Take Five」
僕の好きな曲だ
「お料理が苦手とか」
「あら、あなたとあなたのお友達に作ったスコッチエッグ
気に入らなかった?たくさん食べてたわよ」
ついに僕は彼女の欠点を見つけた
なぜなら彼女が作ったスコッチエッグは、ナイフを入れてみたら
ひき肉が赤く、火が通っていなかったから
僕とお友だちは、それを恐る恐る食べた
彼女はその時言った
「まだあるわよ。こんなことになるんじゃかいかって思って
多めに作ったの
食べかけだけど、わたしのもあなたのお皿に移すわね」
ぼくはチェックメイトをするチェスプレイヤーのよう
ミルクティーのカップをテーブルに置いた
「この前のスコッチエッグ
お友だちはもう少し焼いて欲しかったってたしか言ってたかな」
彼女は言った
「それはお友だちでしょ。あなたはどうなのかしら?
もうわたしのお料理食べたくない?
牛乳を買ってひとりさびしく家まで歩いて
でも女の子ひとりで牛乳を持つのはとても重くて…」
店内はコーヒーのいい匂いで満ち、すてきなジャスが流れている
ぼくは早口で言った
「このお店もコーヒーカップもすてきだね。また一緒にきたいよね」
「でもスコッチエッグをあなたに食べてほしくて
火が通ってないのは食べ始めて知ったの
でも、おいしいスコッチエッグだったでしょ
それがわたしの欠点なの?ひき肉に火が通ってなかったことが?」
薄いラベンダーカラーのカラコンをした瞳で、彼女はぼくの見つめてきた
ぼくは言った
「ぼくには欠点のない女の子だね
欠点のない人って実際いるんだね
たぶん、はじめて出会ったかな」
彼女はまたバナナジュースをかき混ぜていた