6.魔王の祝福
王都の端に位置する壮麗な屋外チャペル。緑豊かな庭園の中に建つその場所は、青空の下、純白の装飾と色とりどりの花々が調和し、美しく彩られていました。
私は純白のドレスに身を包み、エドヴァン殿下の隣に立ちながら、式の進行を見守っていました。しかし、心は落ち着かず、時折チャペルの門に視線を向けてしまいます。
ニルナ様……本当に来てくださるのでしょうか?
緊張が胸を締め付ける中、司祭役を務めるアウリスの朗々とした声が響き渡ります。
「リュミエール様は、エドヴァン殿下を夫とし、妻として愛し て生涯、愛と忠実を尽くすことを誓いますか?」
「はい。誓います」
私は誓いの言葉を述べながら、エドヴァン殿下がニルナ様に返すために聖剣を身につけているのを確認しました。
「エドヴァン殿下は、あなたはリュミエール様を妻とし、夫として生涯、愛と忠実を尽くすことを誓いますか?」
「はい。誓います」
エドヴァン殿下の言葉に嬉しさを感じながらも、胸の内の不安は増すばかりでした。
「この日、我らの王国に新たな希望が訪れる! エドヴァン殿下とリュミエール様が夫婦となり、新たな王と王妃の誕生をここに宣言する!」
アウリスの声が会場全体に響き渡ります。
「おめでとうございます!」
澄んだ祝福の言葉と共に、庭園の門が重々しく開き、鋭い風が吹き抜け、その冷たさが場内の緊張を際立たせました。会場がざわめく中、一人の女性がゆっくりと歩みを進めます。真紅のドレスに身を包み、黄金の髪を輝かせた女性がたっていました。
異彩を放つその存在感に、場内の空気が一変しました。
「誰だ!」
警備兵の一人が叫びます。
「私は、魔王ニルナ・サンヴァーラ、現サンヴァーラの女王です」
「ああ、よかった」
その言葉を聞き、私はほっと胸を撫で下ろしました。
「なぜ、こんなところに魔王が」
旦那様は、なぜか狼狽しているようでした。
「ですから、ニルナ様は、私たちを祝福をしに……」
私の言葉を遮るように、旦那様は兵たちに指示を出しました。
「魔王を捕まえろ!」
「……旦那様?」
掴みかかってくる兵たちをニルナ様は、タップダンスでもするように華麗にかわしていきます。
「私は、あなたの奥方に招待を受けてきました。私に戦う意志は、ありません。なぜなら、私の大切な聖剣は、あなたの奥方に貸し与え、今はあなたが持っているのですから」
「そうです。旦那様、ニルナ女王は、私たちを祝福しに来てくれたのです」
私の言葉は、通り抜けていくように旦那様の耳には届きません。
「みなさん、やめてください。ニルナ女王は私たちを祝福しに来てくれただけなのです」
私の言葉でも、兵たちは止まることなくニルナ様に襲い掛かります。
それどころか、この会場の守護を担っていた将軍は剣を抜きました。
将軍の横なぎの一閃もカーテーシーをしてよけると、そのまま足をかけひっくり返します。
「さあ、友好の証に、私の聖剣を返していただけますか?」
ニルナ様が落ち着いた声で殿下に向かって言いました。
殿下は、それでも動きません。
「は、はい。もちろんです」
私は振り返り、殿下に聖剣を渡すよう頼みました。
「旦那様、ニルナ女王に聖剣を返していただけますか?」
しかし、殿下は首を横に振り、険しい表情を浮かべました。
「ならぬ」
「えっ」
旦那様の言葉を耳を疑いました。
「王妃の説得があればと思いましたが、あなたは何度死んでも繰り返すのですね」
「繰り返す?」
その言葉の意味が分からず、私は殿下を見つめました。
「この聖剣さえあれば、この世界は我のものだ!」
殿下は狂気を帯びた笑みを浮かべ、聖剣を掲げます。
殿下の瞳が金に光り輝きます。
魔力解放『神の錬気』
殿下の体から、古より洗練されたかのような魔力が放たれます。
「ははは、面白いですね」
魔王は不敵に笑います。
「あなたに使いこなせますかね?」
ドレスの足の部分を破くと、シミ一つ無い綺麗な太ももにくくりつけられた女性向けの剣を引き抜きました。
剣を構えると、紫の瞳が昇る太陽のように紅く輝きました。
魔力開放『創生』
魔王から世界が始まりを告げるような魔力が放たれます。
「さあ、返してもらいますよ」