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3.結婚式


「はぁ、はぁ、はぁ」


 私は、飛び起きました。額には冷たい汗がにじみ、胸の奥が激しく波打っています。

 胸元に揺れるペンダントを握りしめながら、その力の正体を理解しました。私の絶望の心が放つ魔力の量に応じた時を戻す魔法のようでした。


 それは単なる防御の手段ではなく、運命をねじ曲げるための手段――私の一族が国の王妃の座にまで成り上がった理由が、今ならわかります。


 何度も何度も繰り返し、望む未来を手繰り寄せたのでしょう。

 祖母がペンダントを絶対肌身から離さないように言っていた意味も、今ならはっきりと理解できます。


 しかし、この魔法には重大な欠陥がありました。それは――術者自身が使わなければならないということ。死んでしまっては発動することができないのです。


 魔力を微かに感じるようになった今、私は自分の意思で魔法を使える自身が芽生えました。

 しかし――。


「もうダメですね」


 声が震えました。それは無理に取り繕うような、諦めを含んだ笑みと共に漏れた一言でした。


 万の軍勢すら、魔王の侵略の対策にからないのだとしたらどうすることもできません。

 しかも魔王は、私の姿を見ている上に、前回の時の流れを完全に記憶しています。


 つまり今回は、かの魔王は私にたどり着き、命を奪うのでしょう。


「なら、せめてもう一度だけ、幸せの絶頂を味わったとしてもバチはあたらないでしょうか」


 その言葉はまるで自分自身への許しを求める呟きのようでした。

 私は、微かに震える手でペンダントを握りしめながら、心に決めます。


 もう旦那様には、なにも伝えないことにしました。


◇ ◇ ◇


 拍子抜けするほど、初めと同じように時が流れました。

 そして、式当日を迎えて――。


「あ、あれ? 私のドレスは?」


 結婚式当日、私の純白のドレスが見つかりません。

 慌てて控室を見回し、引き出しや衣装ラックを探してみますが、それらしいものはどこにもありません。


「そんな、昨日はちゃんとここにあったのに……」


 胸の奥が不安で締め付けられるようでした。けれど、私はすぐに自分を落ち着かせようと深呼吸します。


「きっとどこかに移動させただけです。メイドのエルザに聞けばすぐに見つかるはず」


 そう思い、エルザを呼びに行こうと部屋を出たその瞬間――。


「あれ、リュミエール様? まだこんなところにいらしたんですか?」


 部屋に入ってきたエルザがそんなことを言いました。


「エルザ、いいところに、私のウェディングドレスを知りませんか?」


「はい。ドレスはエドヴァン殿下が持ってくるように言われたので、先程お渡ししました。殿下が自ら手配されると伺っていたので、てっきりリュミエール様も一緒の場所でお着換えするものだと思っていました」


 その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が胸を締め付けました。


 一週目とまるで同じように行動していたはずの私に対し、周囲の人々の動きが変わっている。


 つまり、魔王がなにか仕掛けてきた――そう考えるのが自然でしょう。


 私は外を見ましたが、前回のように王都を火の手が襲っている様子はありません。

 街並みは静かで、通常の結婚式の日常が続いているかのようでした。


「それなら、今度こそ式場で待っている旦那様に会えば、すべてが分かるかもしれません」


 私は急いで結婚式の会場へと向かうことにしました。


 しかし――。


 到着した式場では、主役の私を抜きにして式が始まっていたのです。


「一体……何が?」


 壇上にはエドヴァン殿下と、見知らぬ花嫁らしき人物が立っています。会場のざわめきもなく、整然と儀式が進められている様子に、私は場違いな感覚を覚えました。


「エドヴァン旦那様?」


 私は、おもわずそう呟いていました。

 しかし、その声は会場のざわめきの中でも確実に彼の耳に届いたようで、壇上に立つエドヴァン殿下の表情が一瞬だけ変わりました。驚きか、怒りか、私には読み取れない感情が一瞬だけ垣間見えたのです。


「旦那様だと? 結婚もしていないのにお笑い草だな。君との婚約はとうの昔に破棄したというのに」


「婚約破棄?」


 その言葉が耳に届いた瞬間、心臓が締め付けられるように痛みました。

 彼の瞳には、冷たく見下す光が宿っており、そこにかつての愛情の欠片すら感じ取ることはできませんでした。


 エドヴァン殿下は、腰につけていた剣をゆっくり引き抜くと、掲げました。


「見てみよ。この聖剣を」

 

 会場が、まばゆい光に包まれます。 

 人々の歓声が湧き上がります。


「私は、この聖剣の謙譲者にして、美しきこの女性と結婚することにする」


 エドヴァン殿下の隣に立つ女性を見ました。

 純白のドレスに生える、金糸のような黄金の髪。

 アメジストに似た光り輝く瞳。

 その堂々たる姿は、ただ立っているだけで周囲を圧倒するほどの威厳を放っていました。

 誰もが見劣りしてしまうような絶世の美女がそこにいました。


「ふふふ、いい表情ですね」


 耳元で囁くようなその声には、甘美さと嘲笑が混じっており、私は背筋に冷たいものが走るのを感じました。紫色の瞳が、少しずつ紅く染まっていきます。


「あああ、あなたは!?」


 私には、その姿の見覚えがありました。


 前回の時の流れの中で王都を壊滅させた当人。

 その時の恐怖が一気に蘇ります。目の前に立つその姿、どこか冷徹な笑みを浮かべた魔王。


 魔王です。

 魔王が私の代わりに、檀上に花嫁として立っていました。


魔力解放『創生(グニルズ・ブルースト)』 


 世界を作り替えるほどの絶大な魔力が迸ります。

 エドヴァン殿下の持っていた宝剣を一瞬で奪いとると冷酷な笑みを浮かべました。


「あなたはもう用済みですよ」


 ズシャッ!


 一瞬で、エドヴァン殿下を切り伏せました。会場が一気に恐慌状態に陥りました。

 魔王が着ている真っ白のドレスは、真っ赤に染まりました。エドヴァン殿下血が、刃に薄く輝いていました。魔王が剣を振ると、刀身からしなやかに血が弧を描いて飛び散り、石畳の上に真紅の花を咲かせる。


「な、なぜあなたは愛していたのではありませんか」


「愛? ははは、なにを寝ぼけたことを。私はそもそも既婚者ですし、この男に恨みこそあれ愛などありません」


 魔王の瞳が完全に怒りの紅に変わります。

 それはまるで、すべてを焼き尽くす太陽の紅。夜明けが来ないことを願いたくなるほどの絶望の色彩。


 私は、前回の時の流れの中でその色を見ました。


「魔王……」


 私は、なんとか時を戻そうとぎゅっとペンダントを握りしめ魔力を込めました。


「あ、あれ?」


 私の絶望を糧にした魔力は確かに感じるのに、魔法が発動しません。


 魔王を見ると、手に握る聖剣が、シャカカカカと音を立てて変形していきます。


聖剣変形「|時の女神《ヴェルダンディ―ソード》」


 聖剣が、歪な時計の針のような剣に変形していきました。


「無駄ですよ。私の聖剣サンライズが変形しているのは、時の封印剣ベルダンディーソードです。捉えた対象が時空魔法を使用することを禁じます」


 兵士が動こうとしたとき、魔王が剣を振るいました。

 見えないなにかに斬りつけられたように、大地が裂けます。


「逃げるものは、逃げなさい。追ってまで殺しはしません」


 見えぬ斬撃の恐怖に皆、ありの子を散らすように逃げていきます。


「ただし、元王妃、いえ王妃になる予定だった者よ。あなただけは、逃げることを許しません」


 動いたら、殺す。言外にそういう意味が込められていました。


 カツンカツンと、剣を構えて私に近づいて来ます。


「私は、王だけを殺せれば良かったのに、何度も戻して、よくもまぁ、この私に何度も手間かけさせましたね」


 魔王は、語りながら歩を進めます。

 死そのものが近づいてくるようです。


「何度もやり直せば、万に一つ勝てる未来があるとでも思ったのでしょうが、この私に敗北などあり得ません」


 目の前にきた魔王が、私の首に剣を添えました。


「さあ、覚悟はいいですか?」


 私は、絞り出すように聞きました。

 

「どうしてあなたは、私の旦那様を殺したのですか?」


 死が確定していたとしても、理由が知りたかった。


「どうしてって、まさかあなた理由も知らないのですか?」


「……はい」


 魔王は、深くため息をつきました。


「善良なる愚か者よ。あなたの罪は無知であることです」


 魔王は、いままでのことが嘘であったかのように、穏やかに話し始めました。


「自分の幸せを願うことは、悪いことではありません。ですが、自分一人の幸せを願い皆の幸せを蔑ろにする者は、世界の理を壊します」


 魔王は、そう言いながら、魔法剣を元の形状に戻します。ペンダントが私の魔力を吸収し始め輝きました。


「あなたが真にやり直しを願うのなら、人々の生活を見てまわりなさい」


 私を見つめながら、魔王は諭すように言います。


「次が最後のチャンスです」


 逆巻く時の流れに飲まれる中、魔王は言いました。


「では、また会いましょう」


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