038話 ウィンリル・ロキ・アスタロッド(01)
ルーシファスさんがお部屋を出られた後、私はお母様にいよいよ魔王様をお部屋にお通ししたことを正直に申し上げようと深呼吸をしました。
「あの、お母様。昨晩、魔王様がお部屋を訪れた後の事ですが……」
(待て。それよりこの流れはヤツも来る流れだ)
「え? ヤツ? 来る流れ……? まだ誰かこられるんですか?」
私はそう言いましたが、その瞬間、ハッとしました。
そうでした。私が謁見の間で倒れた時、介抱してくれた青年は3人いました。
そのうち二人がお部屋に来たということはもう一人の方も───。
(来たぞ)
お母様は、扉の前に誰かが来られた気配を察知されたようです。
「ネフェル~。ボクだよ。ウィンリルだよ~」
とても朗らかな声が扉の向こうから聞こえてきました。
(ヤツはウィンリル・ロキ・アスタロッド。先代魔王の弟で4人兄弟の末っ子だ。妾とは同学年で魔界学園ではクラスメイトだったヤツだ)
そういった説明を受けながら、私はウィンリルさんを招き入れようと扉に向かいました。
ドアノブに手をかけ、ドアを開こうとしたとき、お母様が私に忠告されました。
(よいか。ヤツには気をつけろ。四人兄弟の中でヤツが最も厄介だ。決してヤツの機嫌を損ねるな)
お母様の言われ方がいつになく真剣だったので私は驚きました。
「そうなんですか? グランダムさんの方が強そうですし、ルーシファスさんは糸目が開くとハラハラします。そんなお二人よりウィンリルさんの方が厄介なんですか?」
(そうじゃ)
お母様は即答でした。
私はウィンリルさんの人懐っこそうな笑顔を思い返して、俄かには信じられない気持ちでしたが、確かにふだんニコニコされている方のほうが、怒った時に怖いという話はよく聞くので、緊張しつつ扉を開きました。