五、聴き取り
五、聴き取り
副店長が、事務室に、駆け込んで来るなり、「場長、た、大変です! ゲスホ二等兵見習いが、憲兵に逮捕されたそうです!」と、告げた。
その直後、「何だってぇ!」と、模罹田は、素っ頓狂な声を発した。色々とメリケン軍の唯一の伝手が、断たれるからだ。そして、「罪状は?」と、尋ねた。自分達に係わる事だと不味いからだ。
「よく判らないんですが、遊戯場の婦女子に、暴行した容疑で…」と、副店長が、回答した。
「そ、そうか…。じゃ、じゃあ、我々には、関係無いな…」と、模罹田は、安堵した。ゲスホだけで済む話だからだ。
「場長、今から手を打ちませんと、メリケン製品は、お盆を過ぎますと、底を尽きますよ」と、副店長が、提言をした。
「そうだな。今から、この街で売れている商店を回って、出店を依頼しろ。破解石の和菓子だけじゃあ、赤字になってしまうからな」と、模罹田は、指示した。銭市場と取り引きしたい商売人は、腐る程居る筈だからだ。
「は、はい。では、早速、当たってみます!」と、副店長が、意気込んだ。そして、勢い良く出て行った。
「欲張り過ぎなんだよ!」と、模罹田は、口元を綻ばせた。二等兵見習いが、自滅してくれて、清々したからだ。
その直後、事務室の引き戸が、開いた。
「どうした? 忘れ物か?」と、模罹田は、戸口を見やった。その瞬間、「あ…」と、面食らった。副店長ではなく、目付きの鋭い出っ歯の警官と憲兵を引き連れた肥満気味のメリケン軍人の三人組だからだ。そして、「あ、あの。どのような御用で?」と、尋ねた。
「おたくとゲスホ二等兵見習いとの関係について、こちらのメッターボ軍曹が、聴取したいそうだ」と、警官が、用件を述べた。
「わ、分かりました…」と、模罹田は、神妙な態度で、応じた。そして、当たり障りの無い部分だけを語った。
しばらくして、「ゲスホが、施設の物を横流しして居た訳か…」と、メッターボ軍曹が、理解を示した。そして、「迷惑料として、これまでの売り上げは、不問としよう。だが、この市場に残っている製品は、運ばせて貰うよ。ゲスホの横領の証拠品だからね。それと、ここでの事は、口外はしないでくれ。これは、司法取引だからね」と、メッターボ軍曹が、口止めした。
「承知しました!」と、模罹田は、快諾した。お咎め無しならば、何でも構わないからだ。
間も無く、警官達が、立ち去った。
「焦ったぁー」と、模罹田は、胸を撫で下ろすのだった。