三、後悔しますよ
三、後悔しますよ
「モーフォッフォッ。さあて、美根我さんの作った黄あんぱんの売り込みに参りますかねぇ〜」と、茶色い背広の男が、銭市場の店先で、呟いた。そして、敷地内へ、歩を進めた。
程無くして、模罹田と副店長が、歩み寄って来た。
「お客様ぁ〜。場内の品位が落ちますので、出て行って貰えますか?」と、模罹田が、愛想笑いを浮かべながら、開口一番に、言った。
「変わったご挨拶ですね~。私は、飛び入りで、商談に来たのですが」と、茶色い背広の男は、目的を述べた。一応、黄あんぱんを売り込みに来たからだ。
「うちは、メリケン製品で間に合っているので、間に合っているのだよ!」と、模罹田が、満面の笑みで、返答した。
「でも、メリケン製品よりも、私の商品の方が、安心・安全だと思いますがねぇ」と、茶色い背広の男は、食い下がった。黄あんぱんの良さを広げるには、銭市場が、最適だからだ。
「おい! うちでは、要らねぇって言っているんだ! 営業妨害で、通報するぞ!」と、副店長が、凄んだ。
「そうですか。私は、銭市場さんの利益になるかと思ったのですけどねぇ~」と、茶色い背広の男は、溜め息を吐いた。メリケン製のパンよりも、黄あんぱんの方が、街の者の口に合っていると思ったからだ。
「お客様ぁ。今後のご利用をお断りさせて貰います」と、模罹田が、にこやかに告げた。そして、「お見送りさせて貰います」と、言葉を続けた。
「後悔しますよ」と、茶色い背広の男は、口にした。黄あんぱんが、売れ筋商品だと確信しているからだ。
「早く、出て行けぇ!」と、模罹田が、怒鳴った。
「モーフォッフォッ」と、茶色い背広の男は、不敵な笑みを浮かべながら、踵を返した。
少し後れて、模罹田と副店長が、付いて来た。
間も無く、茶色い背広の男は、表の通りへ出た。そして、銭市場を一瞥した。すると、二人が、奥へ戻る姿を視認した。
そこへ、「その様子ですと、黄あんぱんを取り引きして頂けなかったみたいですね」と、茶色と黄色のちゃんちゃんこの男の子が、声を掛けて来た。
「ええ。黄太郎さんの仰られた通りの態度でしたね」と、茶色い背広の男は、口元を綻ばせた。黄太郎の情報通り、メリケン製品に依存しているからだ。
「父さん、じゃあ、あの作戦で、行きましょうか?」と、黄太郎が、問い合わせた。
黄玉の小人が、黄太郎の頭髪から這い出るなり、頭頂部で胡座をかいて、「うむ。そうじゃのう。わしらを舐めて居ると、どういう事になるか、思い知らせてやるとするかのう」と、同意した。
「じゃあ、私は、JF商店へ、黄あんぱんを売り込みに行って参ります」と、茶色い背広の男は、告げた。そして、立ち去るのだった。