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勝ち負け以前に

作者: こん

1941年 4月 6日

 祖国を守るにはどうしたら良いのか。俺の脳はそれで一杯だった。いずれ攻めてくるであろう隣国、国内に潜む共産主義者、民族問題。俺の祖国はまさに内憂外患。お、ソフィアさん発見。女の前ではこんな事考えてちゃダメだな。ソフィアさんが照れたり泣いちゃったりするところを妄想してから話しかけないとね。

「アッシュさん!お待ちしてました。」

 先に話しかけられちゃった。それに怒っている。おそらく。

「すいません、少し遅れたね。」

「いえいえ。怒るほどの遅刻じゃありませんから。」

 それはそうだぞ。精々10分じゃないか。まぁでも毎回遅刻しているからか。すいませんね。

「なら良かった。ソフィアさんは優しいなぁ。」

「そういう反応をされても困りますが、、」

「今日は劇を観に行くんでしたよね。主役が超可愛いらしいですよ。」

「アッシュさんの好みなんですか?」

 少しむくれた顔だ。

「俺の好みはソフィアさんだよ。」

「そんな事言っても何も出ませんよ。」

「その時点で笑顔がでてる。」

 確実に照れてる。ソフィアさんは顔に心情が出るから可愛い。

「あ、アッシュさんが吸ってるお煙草売ってますよ。珍しい銘柄なんですから今のうちに買ってあげます。」

「え、いいの?褒めたら煙草でる女なんだ。」

「言い方悪すぎですし褒められたから買ってあげてる訳じゃないです!」

「へ〜。良い女。」

「でしょう。というかなんでこの珍しい銘柄なんですか?」

「うーん?この珍しい匂いがする女は俺のだぞっていう自慢かなぁ。」

「ちょっと、、気持ち悪いですよ。」

 とか言っちゃって。顔真っ赤で面白いなぁ。

「でも嬉しいでしょ?」

「まぁ、、はい、、」

「やっぱり良い女。」

 話してたら劇場についた。正直劇なんてどうでもいいが、ソフィアさんと遊びに行けるのは楽しい。

「あ、売り子が軽食売ってる。食べよ。」

「お金は、、私ですよね。まぁ良いでしょう。私も親のお金ですから。」

「ありがてぇありがてぇ」

 ーーーーー

 ーーーーー

「面白かったですね!ヒロインが死んじゃうところとか私泣いちゃいましたよ!それにユーゲルの美しい街並みとか歴史が良く再現されてました。やっぱり好きです。この国。」

 ユーゲル。俺とソフィアさんの祖国であり、俺の悩みの種。

「そうだねぇ。主人公の決意が伝わってきたしね。」

「ですね!面白かったです!」

 ソフィアさんは情緒豊かだな。俺とは逆だ。

「ふぅ。今日もありがと。また遊ぼーね。」

「はい!次はいつ空いてます?」

「来週の木金かな。行けそう?」

「空けときます!それじゃあ、、また。」

「うん。またね。今はこんなんだけど、絶対迎えに行くからね。」

「待ってます。ずっと。」

 ソフィアさんの父は軍人だ。それもかなり上層の。彼女と結婚するには俺も相応の立場がいる。けれどこの腐った国で成り上がるつもりはない。祖国はもちろん好きだ。世界一の国にしたい。だけど俺にその力があるのか?いや、祖国を救い、ソフィアさんと結婚するためには、、、、、

 分かってる。何をすればいいのかなんて。このままじゃ俺の妄想は現実にならない。それだけが現実である以上、俺は何をすべきなんだ。考えなきゃ。まずは俺がトップに立ってみんなをまとめて、政策を打ち出す。そのためには何が必要だ?票か?いや違う。この国は不正選挙が罷り通ってる。ならデモか?いや違う。分かってるだろ俺。この国際情勢で生き残るためには強権的な政治体制が必要だ。それを作るためには、、やるしかない。武力蜂起だ。成功すれば革命家。失敗すればテロリスト。俺はどっちだ、、?ああクソ、覚悟が足りない。最高のユーゲルが俺の中だけで終わってしまう、、

 ドォン!!

 なんだ!?銃声がしたぞ!嫌な予感がする、、確実に、、今何かが起こった。それに一番嫌なのは銃声が鳴り続けている方向が帰宅途中のソフィアさんと同じことだ。

 俺は気づいたら駆け出していた。おそらく武力蜂起か、他国からの侵攻。俺が行ってもなんの役にも立たない。けど、行くしかない。感情が論理を上回る。少しの自己嫌悪と焦燥感が俺を覆う。

「ソフィアさん!アッシュ!ここにアッシュがいるぞ!どこだ!?ソフィアさん!」

 ひどい有様だ。人が何人も死んでる。美しい街並みも血と煙で汚れていく。

 !!

 ソフィアさんがいた。横たわってはいるものの、外傷は見えない。

「ソフィアさん!?大丈夫か!?今すぐここから離れるぞ!」

「アッシュさん、、きてくれたんですね、、すいません、足に瓦礫が当たってしまって動けません。さっきの銃声はケルン帝国のパラシュート部隊だと思います。先ほどケルンの紋章をつけた兵士が戦闘をしていましたし、ここに急襲できるのはパラシュート部隊しかないでしょう。つまり、、逃げてください。」

 ソフィアさんのドレスをめくってみると、足が赤黒く変色していた。

「ソフィアさん。こう言う時は悪い女になって俺に助けを求めてくれ。おんぶして逃げる。掴まって。」

「ありがとう、、ありがとう、、」

「おい」

 軍人だ。聞こえないふりをして逃げる。ただ逃げる。

「そこの男!その女はベリャーリス大将の娘だ。軍部に関係する人間は生かしておけん。置いてけ。止まらないと撃つぞ。こちらも民間人を殺したくはない。」

「アッシュさん、、私を置いてって、、」

 ソフィアさんが俺の腕を解いて地面に落ちた。

「何やってるんだソフィアさん!生きなきゃ!まだ俺たちは何もできてない!」

「でも貴方が生きたらこの国を変えられる!私は貴方が語っていた事を信じてます!」

「ソフィアさん、、でも、、俺は、、」

「アッシュさん。私にお煙草の煙を吹きかけて。貴方の女だってケルンの兵士に知らせてやって下さい。ほら、火をどうぞ。」

「ソフィアさん、、ごめん、、ごめんな、、」

 俺はソフィアさんから差し出された火を煙草につけ、煙をソフィアさんの手に吹きかけた。

「生きましょうアッシュさん。そのまま走って逃げて。振り返らないでくださいね。私の死体は見せたくない。」

「分かっ、、た、、」

 2回目だ。感情が論理を上回って何も思考できなくなりながら走るのは。まさか隣国から攻め込まれるという俺の思考、妄想が現実になるとは。分かってた。分かってたのになぜ、、俺は、、。

 ここにあるのは現実だ。思考じゃない。なら俺がやるべきなのはなんだ。

 俺の妄想を現実にするには、、唯一の方法は行動だ、、!行動だ。行動をしなきゃならない。守らなきゃ行けない。ソフィアさんが愛したこの国を!祖国を!政府に勝つ負ける以前に!!行動しなきゃならない!

 俺は、、!俺は俺は!ソフィアさんの為に!やらなくちゃ行けないんだ!ソフィアさんは最後まで、、良い女だった。

 パァン、と今までの俺を殺す銃声が鳴った。

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