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ご主人様に愛される拘束奴隷  作者: 有原優


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第二十四話 自由

「ご主人様は、死んだわ」


 メイリスからそう告げられる。

 野営地で、座り込む私に。


「これ」


 そう言ってメイリスが差し出したのは、カギだ。

 手錠の鍵。


「わ、私は……」


 拘束を解きたい。

 でも、今といたら、違うのではないか。そう私は思う。


 私はしばらく考えたのち。


「ねえ、メイリス。今は拘束を解かないで」


 そう、静かに告げた。

 私は別に、拘束を解きたくないわけではない。

 でも、今は違う気がするのだ。


「ねえ、メイリス。私は何ができるの?」

「え?」


 メイリスは目を丸くしている、


「だって、遺志は継がなきゃでしょ」


 私は拘束を解いてほしくないわけじゃない。

 ご主人様が死んで、拘束を解く自由を得て満足している。

 でも、何だろう。この胸の空っぽ良さは。


 私は、ご主人様のの死を望んでいたわけではない。

 だけど、全てが上手くいっている。

 もう拘束を外す権利を得たのだから。

 でも、このままラッキーと思って、帰るのは確実に違うのだ。


「私は、戦場に出たくない。けど、拘束されている状態だからこそ、出来る事があるんじゃないかって」


 私はそうメイリスに行った。

 メイリスは、ただ頷いた。



 そして戦場に舞い戻った。

 馬鹿だよねと、自虐的な笑みを浮かべる。

 だって、私は、このまま自由になるはずなのに、こんな場所に拘束されたままいるんだもん。


「私はご主人様の死を無駄にしたくはないです。だから、皆戦って勝ちに行ってください」


 私は、別にあった階に行かない。

 アルセイド、ご主人様の補助なしでは、死んでもおかしくない。


 そしてそんな日々が続き、戦争は痛み分けの結果となった。

 いや、どちらかと言えばこちらが優勢な勝利条件を得た。

 撤退したのだ。私たちの祖国から。

 その事実は正直に言って嬉しい。


 私は、戦争が終わってからも、手枷足枷を外す気にはならなかった。

 私には自由になる権利がある。なのに、自由になるのが怖かったのだ。

 結果的に国は戻ったとはいえ、その損害も多きい。

 あの平和だった街並みは失われ、多くの人が死んだ。

 風の便りによると、イスリハも死に、町の人達もたくさん死んだ。

 戦争なんてくそだと、下唇を噛む。


「何やってるのニナ」


 メイリスが戻ってきた。


「ごめんね。世話させちゃって」

「いいのよ、別に」


 戦場に出る前に、ご主人様が残した遺書の内容。そこに遺産はすべてニナに相続と書かれていたのだ。


 この屋敷のお金建物、全て私のものだ。


「ご主人だって言われても」

「そうね。ニナは頑張ったわ」

「うん」


 そして今日は、私の頼みで、町に出た。

 街はいまだに復興しきれていない様子だった。


 相変わらず私は車いすに乗る。

 もう枷を外すことが出来るのに、自由になるのが怖い。

 戦争が終わったとしても、私はこの枷を外す勇気が無い。

 私は卑怯でしかない。


 街の景色は相変わらず、崩れていて、

 見るも無残だ。


 あの時から、何もかも変わってしまった。


 私だけが変わらない。

 戦争が終わったとしても。


 私は……。


「ニナ、今日はニナに会わせたい人がいるの」

「え?」


 私は思わず、メイリスの顔を見る。

 誰だろう。

 もう私にゆかりにある人物には、全員死んだはずだけど。


「あれ」


 私はその人物を見て、驚きの声をあげた。

 そこにいたのはまさに、おばちゃんだ。


「どうしてここに?」


 行方不明になってたはずじゃ。


「それはね、屋敷にいた皆が守ってくれたの。イスリハちゃん筆頭にね」

「イスリハが?」


 それは、私には理解が追い付かない。


 だってイスリハは、私をいじめてたし。


「とりあえず私はその人たちのおかげで助かったの。死んじゃったんだけどね、私をかばって」


 なるほど。


「そのおかげで、助かった命が多かった。皆守ってくれたからね」


 それを聞いて、私はうれしく思った。

 何でだろうか、私にはそこは分からない。


 でもうれしく思った。


 メイリスが補足の説明をしてくれた。

 それは、イスリハ達、屋敷のみんなが、私に縁のある人たちを中心に守ってくれたんだそうだ。


「今日はどうする?」


 メイリスが訊く。


「屋敷に戻る」


 私は言った。



「これが鍵なの?」


 私は訊く。

 この鍵で、私の枷を解けば、私は自由になる。

 焦がれていた、自由だ。

 でも、拘束を外すというのは、私が、さらに自由になることだ。


 自由になる。それがまた怖くなる。


 でも、私は、やるんだ。


「メイリス、お願い」


 私は、メイリスに枷を外してもらう。


「っ、いた」


 私の手は解放された。でも、なんだか動きずらい。


「長い時間、拘束されていたから筋肉が衰弱してるのよ」

「そう言う物?」


 でも、手が動く。

 なんだろう、この感覚。


「ちょっと気持ち悪い」


 今まで拘束されてるのが常だったからか、思うよりも、動きづらい。


 それから、暫く拘束から解放される日々が続いた。

 私は、拘束具をベッドの近くに置く。

 あれからリハビリをして、ある程度は自由に動かせるようになったが、まだ、拘束具が近くに無かったら気持ち悪いのだ。


 私はもう拘束生活は嫌だ。拘束なんてされたくない。

 なのに不思議だ。





「ねえ、メイリス。私はこれからどうしたらいいと思う?」


 メイリスに訊く。


 私は自由になった。でも、そしたら義務が生じる。

 私はいつまでたってもご主人様の遺産に、頼るわけにもいかない。


「なら」


 そう言ったメイリスに再び町へと連れていかれた。


「ニナってたまに看板娘になってたって聞いたから、商人になったらいいんじゃないかしら?」


 そう、メイリスは私に告げる。

 街並みを見せながら。


「幸い、お金なら沢山あるし、投資のためのお金もあるわ」


 確かにそれならば、私にもできる。


「分かった、でも拘束はされないからね」

「それは分かってる」


 商売も始める。

 最初は苦戦したが、私の元戦場の女神としての立場も幸いして、段々と、商売も軌道に乗り始める。


 楽しい、そう私は思う。

 自由に、自分の力で何かをなせる。

 こんなに幸せなことは他にない。


 私は、今は、自由に生きていける。


 そう思うと嬉しいのだ。

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