第二十三話 罠
俺はしがない一般兵士だ。
俺は元々金のために戦場に参加した。この国を守るためには、戦わなくてはならないことは分かっている。だが、あまり国に忠義はない。いざとなれば亡命も考えていた。
だが、それが変わった。
向こうの馬のアルセイド様の後ろに座ってる少女。彼女は、ニナというそうだ。
彼女は目隠しされ、口枷をされ、ギロチン拘束で馬に乗っている。
俺は彼女のことが気になる。
今日戦場は激しさを増し、今までの軽い小競り合いみたいなものは亡くなった。だが、彼女はそんな中、背筋をしっかりとピント立たせ、凛とした形相で、馬に乗っている。
俺にはその姿がかっこいいと感じた。
彼女は戦いすらしてないが、この中で一番戦っている。そう感じた。
俺たちは彼女の頑張りに応えなければならない。俺たちは彼女のために勝たないといけない。
そう思うと力が湧き出る。
「うおおおお!!!!!」
俺は頑張れる!!!!
そして敵兵をどんどんと殺していく。
★★★★★
そして、ニナの謎のバフのおかげでどんどんと敵が沈んでいき、戦況は依然有利だ。
アルセイドも、破竹の勢いでどんどんと進行していく。
だが、その瞬間、アルセイドの足元に弓矢が飛んできた。
アルセイドは向こうを見やる。すると、山の上からこちらを狙ってる影が見えた。
そこからもう一射放たれる。
「ちぃ」
アルセイドはそれを避ける、避ける避ける。だが、その勢いは止まらない。次々とこちらに向かって放たれる。
しかも厄介な事に、狙いはアルセイドではないようだ。
その狙いは、ニナだ。
確かに理にかなっている。ニナを殺すことさえできれば、士気は落ち、直ぐに壊滅させられるだろう。
だからこそ、アルセイドは自分が死んでも、ニナを殺させるわけには行かない。
「はあ!」
アルセイドは必死に弓矢を避けながら敵兵を斬っていく。
自分の後ろに乗せている、ギロチン拘束されているニナは殺されるわけには行かない。
「はあ!!」
山の上は遠い。だが、弓矢がこの精度で放たれているという事は見た目ほど遠くはないという事。
単に射主の目がいいだけかもしれないが、それでも風の影響を受けないで放てる距離には限度があるのだ。
山の中は、そこまで距離が無いと言えよう。
「皆の物。我々は今からニナを殺そうとしている山の上の射主をしとめに行く。行くぞ!!」
そして皆声を上げ、一気に走りだしていく。
その勢いはどんどんと増していく。
そしてあっという間に山を制圧する勢いで進んでいく。
いくら弓の名手とはいえ、山の上に入ってしまえば、弓矢は飛んでこない。
木という障害物がある上に、角度、風、様々な側面で中々ん当てるのが不可能に近くなるのだ。
そして、アルセイドは一気に弓兵に近づき、その首を打ち取った。
だが、その瞬間、音がした。
足音だ。
「なんだと」
アルセイドは呟く。
そこに、大量の兵が来たのだ。
あっという間に周りを囲まれる。
「罠か」
そう、アルセイドは呟いた。
あの弓兵。おそらくあの制度の兵士は、普通に十年に一人くらいの逸材だろう。
だが、それを使い捨てにしてもなお、アルセイドをここで仕留めるべきだと考えたのだろう。
今、アルセイドの後ろにはギロチン拘束され、目隠し口枷を施されたニナだ。
「とりあえずだ」
アルセイドは、素早い動きで、ニナの拘束をほどいた。
そして、
「メイリス。頼んだぞ」
そう言って、メイリスに手渡した。
「ねえ、メイリス。これってどういう状況なの?」
そうニナは訊く。今ニナは両手を後ろで縛られている。
「新手よ。罠に引っかかって、ここは囲まれているわ」
「え?」
それやばくない?
「ここは死地よ。だから、気を付けて」
「気を付けてって言われても」
私には、行動するすべがない。というか、体を動かす事すらできない。
「ここは、ご主人様に期待するしかなさそうね」
そして、ご主人様が向かってくる敵兵を見事な気迫で斬り去っていく。
その姿は頼もしい。
でも、敵兵の数が多すぎる。
これを物の、百人程度で倒しきることなど無理だろう。
「退路を作る。皆頼んだ」
「はい!」
メイリスはそう言って後ろへと向かう。
後ろへと、退路を作るべく、兵が動いていく。
アルセイドが全貌の兵を切り伏せていき、
メイリスたちが背後を切り開いていく。
「ニナを守るために全員動きなさい」
そう言ったメイリスの指示に合わせて、皆動いていく。
どんどんと、果敢に兵へと向かって行く。
でも、これじゃあやっぱり、多勢に無難じゃないの?
やっぱり、中々兵を切り倒せている感じがしない。
皆、私を守るためにどんどんと攻めていく。でも、皆傷つき、やられていく。
なに?
この絶望的な景色は。
私が見たかったのは、こんなのじゃない。
私はただ、
兵がみんなご主人様の方へと向かって行く。
あちらも心配だ。
ご主人様は、別に好きじゃない。むしろ嫌いだ。
だけど、果敢に囮になろうとしているあの感じ。あれは、私を想ってくれてのことだ。
いくらご主人様が嫌いでも、ご主人様のすべてを否定するのが違う。
嫌いだというには、善行悪行すべてを踏まえたひょい羽化を示すべきだ。
「俺を討ちたいなら全員こちらに向かって来い!!」
そしてご主人様が兵を引き連れている隙に、消耗をしながら、何とか、突破をしきった。
「はあはあ」
メイリスは、疲れている。
そしてその向こうには、のろしが上がっている。
ご主人様が打ち取られたという事だろう。
★★★★★
お腹に、槍が突き刺さった。
俺の命はついえるのだろう。
流石に数が多すぎた。
この俺がここで倒れるとは。
向こうを見る。
ニナが逃げおおせている様子が見えた。
それでいい。もうニナの拘束姿を見ることは出来ないが、
ニナが生きていてくれるだけで俺は幸せなんだから.




