幕間 I
【7月10日/???】
フゥ、と息をつく。
暗い部屋のなかは、少しばかり冷房が効きすぎていて。
この年老いた体には堪えるな。
椅子に深く腰かけて、円卓に向かい、連中の表情をうかがう。
私を除いて七人。誰もかれもが、しわの刻まれた顔で。
医者やら政治家やら、表の世界での地位相応にプライドが高そうな奴らだ。
無駄話のひとつとて交わされぬ広い室内は、しんと静まりかえり。
厳粛な雰囲気は、さながら秘密結社のそれのよう。
もっとも、その例えもさほど間違いではないのだが。
「あー、あー。皆々さまがた、お集まりのようで」
私が発した声に、ぴりと空気が張りつめるのを肌で感じる。
「あなたがたのご助力ありまして、本組織は円滑な運営を行うことができ……」
「副議長、我々は君の長台詞を聞きに来たわけではない。早く本題に移ってくれないか」
「これは失礼。では単刀直入に」
壁かけのスクリーンへと視線を誘導し、手もとのリモコンで映像を投射。
夜中の桜野市──ドローンによるリアルタイム動画──が、巨大な画面いっぱいに映しだされる。
「皆さまにお集まりいただいたのは……。昨日行われました、我々の計画。“人類延命計画”が第一フェイズ、それについての報告でございます」
おお、と部屋が沸いた。
結果を知りたい。彼らのそんな気持ちが、手に取るようにわかる。
「いったいどうなったのかね? やはり、先日の地震は」
「そう焦らずに。……さて、気になる方も多いとお見受けしますし、結論から」
鞄からペットボトルの水を取りだし、軽く喉を潤して。
「第一フェイズは成功です。無事、計画どおりに遂行されました」
連中の険しい表情が、一気に緩んだ。
それも当然だろう。悲願へと、近づいたのだから。
「素晴らしい! やはり、あの理論は正しかったか」
「非常に喜ばしいことだな。いやあ、安心したよ」
「これからも油断せずに実行してくれ」
欣喜のために口数多く盛りあがる老人たち。
彼らの瞳は、とても理性が宿っているようには見えず。
はらわたの底に冷水を沈める思いで、その様子をひとしきり眺めた。
「あー。しかし、立案段階から懸念されていた、計画遂行による犠牲者の発生もまた事実でございます」
「必要な犠牲だよ、副議長。それについては、うちでなんとか誤魔化しておこう」
「ありがたいお言葉。それでは大事にならないよう、舘川氏には情報操作をお願いいたします」
適当に指示を出し、質疑に答えて。
場が落ち着いてきてから、解散前の伝達事項を述べる。
「第二フェイズの実行までは、まだ時間がございます。それまでの間、ごゆるりとお過ごしください」
一人、また一人と席を立って。
誰もいなくなったのを確認してから、深くため息をこぼす。
「……計画は、すべて手筈とおりに。すべては議長の意のままに進んでおります」
ぶつり。スクリーンの映像が途切れて、消えた。
私だけがいる部屋で、マイクから変声フィルター越しの音が響く。
「ご苦労だね、漆原。きみは副議長として、申し分ない動きをしてくれているよ」
「恐悦至極にございます。私はただ、議長の仰ったままにことを運んだだけです」
「きみは律儀だね。それとも、彼ら老人と同じように、僕のことも内心で嘲っているのかな?」
「滅相もございません。……それで、例の件についてですが」
「あぁ、彼のことだね」
音声に、ざざっとノイズが走っては。
「僕たちの計画のキーパーソン。彼は、決して失ってはならない。判っているね、漆原」
「重々承知しております。観察に不備はございません」
「うん。結構」
そうして、ぱったりと言葉は途切れる。
双葉が典型的なツンデレキャラ風の口調になったのは、「圭一の部屋にあったマンガ・ラノベを勝手に読んでたら移った」という事情があるらしいです。
圭一くんはツンデレ娘が好きなのかもしれません。趣味バレですね。