もしかして:中二病
前方に後輩、背には壁。
まさか正面突破というわけにもいかないし、逃げ場はないとみていいだろう。
「……で? 閉じこめたからには、なんか要求があるんだろ」
「話が早くて助かります。先輩は、地震後の現状についてどれほど把握していますか」
ぼんやりとした問いだな。
「まず、携帯やネット、放送関連が通じないこと。次に、少なくない数の行方不明者が出ていることだな」
「私のクラスでも、三名ほど消息をたどれない人がいますね。では、これはご存知でしょうか」
胸ポケットから取りだしたスマホを手慣れた様子で操作して、四谷は一枚の写真を見せてくる。
山奥に広がる、薄く緑色の霧。一見して、不可解な光景だ。
「えっと、なんだこれ?」
「何と聞かれても困ります。私にもわからないので。……これは、私の家の近くで撮影したものです」
「ぱっと眺めた感じ、かなり広範囲の霧らしいけど。僕は見たことないな」
「私の家、市の外れの山のほうにあるのですよ。どうも市街地からは見えにくいみたいですね」
なるほど。
遠くの景色がうすぼんやりしているなと思っていたが、もしかすると霧がかかっていたのかもしれない。
「私とは逆方向に帰る友人に聞いてみたら、そちらでも同様みたいです」
「となると、思っていたよりもさらに広いな」
僕たちがいる桜野市は、山に囲まれた土地である。
昔から、霧の発生自体は珍しくなかった。
だが、この光景にはやはり違和感がある。
(なにより、緑の霧って……)
嫌な懸念が生じてしまうな。
「この霧、昨日私が家を出発する頃にはありませんでした。ですが、部活中に地震が起きて、お母さんの車で帰ったらもう発生していたという次第です」
「それで、今日の朝は?」
「はい。まだ続いていました。しかも、昨日よりもわずかに霧の領域が広くなっています。それが不気味で……」
ただの自然現象ではないらしい、ということは伝わってくる。
だが、話が読めない。
「四谷。この話を僕にしたのは、なぜだ?」
「風祭先輩だからですよ。部長が信頼を寄せていた、あなただから」
「……なるほど。つまり君は、これをオカルト的なミステリーだと判断したうえで、僕に意見を仰いでいると?」
「その通りです」
「ナンセンスだ、と言いたいところだが……。残念なことに思い当たる節がある」
横目で、双葉へと視線を遣る。
意をくみとってくれたのか、彼女はこくりと頷いた。
どうやら、同じ思考に至ったらしい。オカ研部長の保証つきだ。安心して発言できるというものだろう。
「四谷後輩。『フィラデルフィア実験』というものを知っているか?」
「えっと、知らないですね」
「オカ研の部員なら把握しておくことだな」
「あいにく、私は心霊系専門なので実験系はカバー外でして。ところで、それがなにかいまの話に関係が?」
「いまのところ、現状と似通っているところがあってな。順を追って説明しよう」
部室内にあったホワイトボードを拝借する。
黒のマーカーを手にとって、文字を書き殴りながら。
「実験とついているが、この話は与太話だ。それを念頭において聞くといい」
「はーい」
「この実験は、第二次世界大戦の最中に行われたとされている。目的は、艦船のステルス化だ」
「ステルス化……って、敵のレーダーに引っかからなくしたりする、あれですか?」
「いや、この実験はもっと踏みこんで、“船体の透明化”をしようと試みたものだ」
簡略化した船の絵を書いて、隣に「透明化」と書き足す。
「相変わらず絵が下手ね、アンタ。鈴ちゃんもぽかんとしてるじゃん」
「うるさい」
隣からの茶々入れに小声で返す。
双葉だって下手だろ。犬の絵とか六本足にしか見えないし。
「この実験は最終的に失敗する。船体は遠く離れた場所に瞬間移動し、複数人の死者が出た」
「それで、現状に似ている点とは?」
「“緑の霧の発生”だ。あちらでは、船は霧を発し消え去っている」
……もっと踏みこんだ話をすると、類似点はもうひとつある。
それは、死者の状態。
転移した船の中には、「壁と融合して亡くなった船員」がいたらしい。その状況は、双葉らしき死体のそれと合致する。
もっとも、そんなショッキングな話を聞かせるわけにはいかないが。
「詳しくは、双葉が調べたファイルのなかにでも載っているだろう。とは言え、正式な記録もない与太話だから、参考になるかは知らんが」
「いえ、助かりました。閉じこめた甲斐があります」
「閉じこめた甲斐って変な言葉だな。というか、この程度のことなら聞かれれば答えるぞ?」
「用事はそれだけではないので。先輩、あなたのオカルト知識を頼りに、ひとつ」
「なんだ? 申し訳ないけど、早く帰りたいんだが……」
正直、オカルトには関わりたくない。
なんか、すごく嫌な予感がする。僕の勘はよく当たるんだ。
「この街に潜む秘密組織を倒すため、手伝ってほしいんです」
「……は?」
ほら、やっぱり!!
すごい厄ネタみを感じるんだが。
「ちなみに、拒否した場合は?」
「いますぐ叫びます。先輩に乱暴されてるって、大声で」
「理不尽だ……」
月が綺麗ですね。
あぁいえ、プロポーズのほうでなく。文字通り「月が綺麗だな」と思っただけです。
たまには夜空を見あげ、思いに耽るのも風流でいいですね。
ぐぁぁ突然の胃酸の逆流!!!!! 喉もとがなんか辛いよ!!! 助けて!!
ぉあああ! 次回は幼なじみとのイチャイチャ回になると思います!!! よかったら読みに来てね!!