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夏への扉がひらくとき

 夏空の下で、からりと風は凪ぎ。

 電柱に融けて磔になったアイツは。

 息をしてない。生きてない。


 なぜ、こんなことになったのだろう。

 ジリリ。どこかで蝉が鳴いた。




【7月9日/風祭かざまつり 圭一けいいち


 じりじりと照りつくような日射しが、開け放たれた窓から注ぎこむ。

 それが鬱陶しくて、まばゆさから逃れるように、机に突っ伏して眠ったふり。

 こんな暑さのなかだというのに、教室のなかはガヤガヤと騒がしい。

 まぁいいさ。ホームルームの時間までは、こうしてやり過ごそう……。


「おはよっ、圭一。朝からぼっちムーブしてんじゃないわよ」


 そんな目論見は、聴き慣れた高い声に妨げられた。

 おもむろに顔をあげると、視界に映るは薄紅色のツインテール、そのひと房。

 覗きこんでくるようにして、整った童顔がフレームインしては。赤く大きな瞳と視線があう。


「……おはよう、双葉ふたば。そういうお前は、ずいぶんとご機嫌なようで」


 これ見よがしに、フゥとため息をついてみたりして。

 仕方なしに身体を起こし、改めて向き直る。

 幼なじみだからって、毎日律儀に声をかけてこなくてもいいのだが。

 コイツはただでさえ目を引く容姿をしている。そのうえ、クラスカースト最下層の僕と話してちゃ、そりゃ結果は自明。

 さっきから生あたたかい視線が集中しているんだよ。居心地が悪いったらこの上ない。


「なにやら他の連中も騒がしくしているみたいだが。夏休みが近いから、いまからテンション高いのか?」

「それもあると思うけど……。もしかしてアンタ、知らないの? 転校生のこと」

「んん?」


 完璧に初耳だ。

 こんな時期に、転校生だって? 中途半端にも程があるだろ。


「ほんとに知らなかったのね。ちゃんとみんなと交流しないからよ」

「ぐっ。悪かったな、ぼっちで」

「あたしがいなきゃ、何も解らない圭一くんは。盛大に感謝するように」


 双葉は演技ばった口調で、ない胸を反らしふんぞり返ってみせる。

 はいはい、ありゃとごぜーます。と気のない返事をして。窓の外なんか、興味もないのに眺めてみた。

 無駄に澄みわたった、青い空である。


「またそうやって、“興味ありませんが?”みたいなムーブして」

「実際そうだろう? 人気者のお前ならともかく、はぐれ者の僕には関係のないことさ」


 あくまで視線は外に向けたまま、心がけておざなりな言葉を返す。


「でも、めちゃくちゃ可愛い子みたいだけど?」

「…………」

「あっ、一瞬いま反応した! このむっつりスケベ!」

「誰がむっつりだよ」


 め、めんどくせぇ……!


「まったく。もうすぐ先生来るぞ、席戻れ」

「ふん、けーちゃん(・・・・・)なんてもう知らないんだから! この色情魔!」

「意味わかんねぇよ!」


 あと、学校でその呼び名はやめてくれ。クラスがざわっとしてるだろ。

 去っていくちびっ子を後目しりめに、またひとつ嘆息する。


 タイミングを見計らったように、教室の前方扉が開かれた。

 クラス担任の初老の先生……と。彼に遅れて、少女がひとり。

 その儚げな美貌に、つい目を奪われてしまう。


「今日から転校してきた、三日月みかづき 氷織ひおりです。みなさん、よろしくお願いします」


 腰まである銀髪は、さらりと柔らかそうで。

 伏せられた長い睫毛に、うっすら覗く緑の瞳。

 細い手脚は、簡単に折れてしまいそうだ。

 双葉も同様に痩せているほうではあるものの、彼女と違い身長があるぶん、より華奢な印象を受ける。

 まるで、作られた人形のようだ。


 ポケットのなかでスマホが振動する。

 こっそり取りだして通知を確認。双葉から「見過ぎ、むっつり」と送られてきていた。

 「そんなことねーし」と返信し、視線を戻す。

 案の定、転校生はクラスメイトたちの質問の矢に晒されていた。

 まったく、騒がしい連中である。

 もう一度寝たふりでもしようか……と考えたところで、彼女と目があった。


「あっ、圭一くん。やっほー」


 さも当たり前のことのように、平坦な声音を崩さぬまま、氷織はこちらに手を振ってくる。

 ……あれ? 面識、ないはずだけど。


「久しぶりだね。元気にしてた?」

「えーっと、あー。どこかでお会いしたことがおありで?」

「覚えてないの……?」


 待て待て、急展開にも程があるだろう。

 やめてくれ。クラス中、すごい雰囲気になってるじゃないか。


「なんだ、三日月は風祭と知り合いだったのか。なら近くの席にしておくか」


 やめてくれよ!?

 僕の平穏な生活が、ますます遠のいていくじゃないか。

 そんな思いもむなしく、話は決定事項として進められてゆく。


「改めて、よろしくね」

「……ああ。まあ、よろしく」


 結局、彼女の席は僕の隣になった。

 ぎこちなく返事をしつつ、どこか落ち着かない心地。


「そうだ、圭一くん」


 ──今日の帰り道、気をつけてね。

 告げられたその言葉が、不思議と耳に残った。

読んでくださり、ありがとうございました!

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