一章 ~再会は突然に~
困った。
眠り姫ことヴィヴィアは、人生最大の困難に出くわしていた。
ふむ、と二三度頷きながら、あっちへうろうろこっちへうろうろ。
十分間ほど、そんな意味の無い行動を繰り返していた彼女だったが、ついに声を上げた。
「私の服は、いったいどこなのよ!」
そう、一国の王女であるヴィヴィアは生まれてこのかた、一度も自分で着替えをしたことなど無かった。
ドレス、と一言発すれば何人もの侍女達が髪から何から、完璧に仕上げてくれていたのだ。
自分で服を選ぶことも無かったし、増してや自分で服を脱ぐなど言語道断だ。
今現在も、こうして服を探すことに多少なりとも不満を感じてはいるが、流石に居もしない侍女を呼びつけるほど、ヴィヴィアも世間知らずではない。
「あああっ。もう!ドレスの一着くらい常備しておいてほしいわ!」
がしゃがしゃと乱雑にヴィヴィアは、黄金の髪を掻き毟り、大袈裟なほどにため息をついた。
辺りを再度確認してみて、やはりここにお目当てのものはないと悟る。
きゅっ、と唇を引き結び、ヴィヴィアは拳を握り締めた。
「・・・っ。仕方ないじゃない。自分でどうにかするしかないんでしょう?」
自分自身に言い訳をするように、ヴィヴィアは呟き、ドアノブに手を掛けた。
キイとドアの軋む音と共に、心の中で涙を飲む。
ああ。
まさかこの私が、ネグリジェ姿で部屋から出るなんて・・・っ。
キイ。
それは、おおよそ百年ぶりに聞いた、自分以外が立てた物音だった。
黒髪の少年エレは、手にしていた分厚い本から目を離し、はっと顔を上げた。
端正な顔に、疑問の色を浮かばせる。
「空耳か・・・?」
ぽつりと囁き、本に視線を戻す。
本には、先程と変わらず小さな字が並べられていたが、エレの頭に内容は入ってこない。
ずらずらと連なった文字の音だけが脳内を徘徊するだけだ。
暫くの間、そんな意味のない読書を続けていたエレだったが、ふいに椅子から腰を浮かせた。
集中できない。
一つのことが気になると、他のことが手につかなくなる。
エレは典型的な一点集中型だ。
面倒くさい性格だな、等と思いながらエレは耳を澄ました。
空気の動くその音すら聞き逃さぬように、身じろぎひとつしない。
自分の鼓動の音すら鬱陶しいと、眉をひそめる。
ペタンペタン、パタパタ。
幽霊、にしては足音が可愛らしすぎる。
忙しなく廊下を行き来するように幾度も響いてくる足音は、裸足なのだろうか。
出て行くかエレが迷っていると、そのうちに足音は彼が忠誠を誓った相手、王女の部屋へと消えていった。
「っ!」
小さく息を呑むと、エレは全力で駆け出した。
椅子に立て掛けてある、銀に輝く剣を引っつかみ、ついでに椅子を蹴飛ばした。
ガコッ。
ずいぶん痛そうな音がした。
もちろん、そんなことは気にも留めず、エレは激しくドアを開け放ち、廊下に飛び出す。
後ろの方で、本が盛大に音を立てて落下したが、構ってはいられない。
あの方の安否に比べたら、本など心を掠めすらしない。
王女の部屋のドアを、押し破るように開け、エレは周りを見ることも無く剣を振り回しながら、静かに呟いた。
「ヴィヴィア様の寝所に忍び込むとは、いい度胸だな」
「ふぇ?」
「・・・へ」
なんとも間抜けなその返答。
部屋の中にいた人物は、小さな顔いっぱいに驚きを浮かべた。
未だ剣を降ろさず、ぽかんとしているエレに向かって声を上げる。
「あなた・・・っ。もしかしてエレェッ!?」
黄金の髪が、声と共にふわりと揺れる。
見覚えのある顔、聞き覚えのある声。
ごくん、とエレは唾を飲み込んだ。
「ヴィ、ヴィヴィア様?」
それが、眠り姫とその忠誠なる従者の、およそ百年ぶりの再会だった。
眠り姫シリーズ第二話です。
やっとこれで次の章から、独り言ではなく、会話らしい会話が出来そうです。
この時点ではエレ君、目茶目茶いい人に見えてますよね・・・。
ああ、本性がそろそろ見えてくるはずです。
話は変わりますが、もしこの作品を見てくださった方がいらっしゃいましたら、是非是非感想お待ちしています!
ていうか、書いてください!
お願いします!
これからも頑張ります。




