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身砕の魔術師  作者: たけのこ海の上
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第九話「昨日の敵は今日の友」

時間なくてとらドラ!読めない

 僕が、有罪。

 最初にこの判決に異を申したのは、姉さんだった。


「ちょっと、どういうこと!? ルータに非はないってあれほど言ったのに!」


「まぁまぁ、落ち着いてくださいサラネイ様。ああ、私といたしましても偉大なる魔法使いであるサラネイ様の弟君を有罪にするのは非常に心苦しいことなのです」


 グレッドさんはさも心苦しいと言ったような表情で頭を抱える。

 姉さんは少し沈黙した後、冷静な口調で再び口を開く。


「……あんた、まさかルータを使って私の評判に泥塗ろうってこと?」


「……まぁ、穿った見方をすれば、そうでしょうね」


「ちっ、よくもまぁ、いけしゃあしゃあと……もうあんたに何言っても無駄ね。それよりも国王。あんた、何で姫様いないのよ。被害者である彼女の意見は何もないって訳?」


 そう姉さんが問い詰めると、国王はゆっくりと口を開いた。


「本来ならばそうだろう。だが今回は例外だ。王族の者が平民生まれに負けるなど、そんなことはあってはならない。あってはならないのだ」


「……だから、ルータが卑怯な手でも使ったことにしたいのね」


「これは、国の威信の問題なのだよ、サラネイ君」


「地位とか名誉とか、そんなことを気にするんなら私の弟を無理やり犯罪者にすることの方がよっぽど悪手だと思いますけど」


「話にならん。さっさと被告を連れていけ」


 国王の言葉に、兵士が動く。

 理不尽な現実に思わず歯噛みをした、その瞬間だった。


 一瞬、それは気のせいかと思ったが、違う。

 冷たい。

 ひどく辺り一帯が、何の前触れもなく極寒の地と化した。


 ――その冷気の発生源は、いつの間にか王様の目の前にいた姉さんだった。

「――たかが王風情が、私の弟に手ェ出そうっての?」


 底冷えするような恫喝。

 そこに、グレッドさんが声を張り上げる。


「ま、待ちたまえ! そんなことをしたら君が国家反逆罪に――」


「黙ってろ、死にたいのか?」


 一喝。

 今、この場において主導権を握っていたのは紛れもなく姉さんだった。

 しかし今の姉さんは、本当に王様を殺しかねない。ついでにグレッドさんもやられそうだ。

 そうなれば、姉さんは当然、僕もまともな生活を送れなくなる。

 ここで、姉さんを止めなければ……!


 と、その時だった。扉が勢いよく開かれたのは。

 そこにいたのは――王女カラユーイ。

 その美しかった顔には、僕の魔術でついた痛々しい火傷が見て取れた。


「サラネイ様、お待ちを! 今、私が証言をいたします」


 そうして、証言台に立った彼女は決闘で負った傷は完全に自分の不注意であり、僕が卑怯な真似をしたわけではないと、しっかりとそう言った。

 さらに、僕も知らなかったことだが何と僕と決闘するよう助言したのは、グレッドさんだと言うのだ。

 衝撃的な発言に、思わず国王の方が声を荒げる。


「それは事実なのかね、キースロング!」


「い、いえ、これは……その……」


「ええい、その話については後で詳しく聞く! それより娘よ、たとえその話が本当だったとしても顔に傷を付けられたのはどうするつもりだ。王国の姫として致命的、嫁にもらってくれる物好きな国のものなどそうはおらんのだぞ。世間から奇異な目で見られたら、どうするのだ!?」


「別に、火傷ぐらいどうってことないですわ。これぐらい、幻影の魔道具でも使えばどうとでもなる話ですし。それに、奇異の視線で見られたくないというのは、お父様の都合ではなくて?」


「……むぅ」


 その言葉が応えたのか、王様は押し黙る。


「分かっていただけたのなら、彼に与える判決は決まっているはずですわ。悪いのは私、彼はただ真っ当に戦ったに過ぎませんわ」


「……被告ルータ・ダレンドを無罪とする」



 結論。

 僕は無罪になり、晴れて自由の身となった。

 カラユーイさんのファインプレーで姉さんが暴走することはなかった。

 もしあのまま、カラユーイさんが来なかったら……考えたくもない。

 ちなみに後で聞いた話だが、グレッドさんは国外追放になったらしい。

 何でも、他にも姉さんを陥れようとするために悪事を働いていたのだそう。

 話してきた姉さんは「気持ち悪い」と心底嫌そうな顔をしていた。


 まぁ、何はともあれ。めでたしめでたし。


◇◆◇


 道場に戻ってくると、キャミュが大喜びで迎えてくれた。

 寮の部屋で小さなパーティーを開いていると、コンコンとドアが叩かれる。

 誰だろうと開けると、そこにはカラユーイさんの姿が。

 無言でついてこいと指でジェスチャーしてくる。

 キャミュと顔を見合わせると、首を傾げられる。彼も知らないようだ。

 僕は素直についていくと、カラユーイさんは人気のない場所で立ち止まる。


「あなた、まさかタダで済むと思っているんですの?」


「え?」


 唐突にそんなことを言われ、僕はうろたえる。

 よよよと、わざとらしくさめざめとした表情をするカラユーイさん。


「一国の王女が、傷物にされてしまったのですのよ? あの時は大口を叩きましたが、正直もう私を貰ってくれる殿方なんていないでしょう……」


「い、いや、それは……僕が、悪いんですけど……」


「なら、責任取ってくれますわね? 殿方として吐いた言葉は飲み込めませんわよ、婚約者さん?」


「――――はい?」

日本ダービーはファントムシーフで行きます。

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