第七話「決闘」
おい決闘しろよ
翌日。
僕は出来る限りの準備を終えて大広間へと足を踏み入れた。
すると、もう多くのギャラリーが集まっている。
その中には、キャミュの姿もあった。
「あっ、ルータくん! 災難だったね……ってここに来たってことは、決闘受けるんだね」
「ああ、挑まれたからにはやらないとな」
「り、律儀だね……でも、気をつけてよ。あの日見た通り、お姫様相当に強いよ」
「……やれるだけのことはやって来たつもりさ」
あとは、それがどこまで通用するかだ。
キャミュと別れ、覚悟を決めて大広間の中心に向かう。
そこには杖のようなものを念入りにチェックしているカラユーイさんがいた。
と、ふと目が合う。
「どうやら逃げずに来たみたいですわね。あのサラネイ・ダレンドの弟……貴方がどこまでやれるのか楽しみですわ」
「……そっちこそ」
「あら、中々言うではないですの」
そう言うと、彼女は杖を構える。
極々自然な構えに、彼女が戦い慣れしていることを示唆している。
その恐ろしく鋭い目付きは、思わず背筋に寒気が走るほどだった。
「……で、いつ始めればいいんです?」
「そうですわね……そこのメガネ、頼みますわ」
「えっ!? あっ、はい不束者ですが!」
カラユーイさんに声をかけられたメガネ君が、合図をとるようだ。
彼は手を挙げると、決闘の宣誓を始める。
「で、ではっ! 両者ともに己に恥じぬ戦いを! ――決闘、開始ィ!」
「――〝地這い〟」
合図と同時に、地属性の魔法が行使される。
〝地這い〟。普通なら足止めぐらいにしかならないであろう地面を多少隆起させる魔法が、とてつもない威力を持った大地の波浪となって襲いかかってくる。
だが、躱せないほどじゃない。
ジャンプして波を避ける。よし、上々……!
「〝弾岩〟」
「うわっ!?」
その瞬間、かつて見た土の弾丸が杖の先から飛び出して来た。
とてつもないスピード、視認する暇もなく僕を向かってくる。
「くっ!」
咄嗟に腰に差していた剣を抜き、盾にする。
直後、〝弾岩〟は剣の腹に直撃し、凄まじい衝撃が伝わってくる。
その勢いで僕は後方に吹き飛ばされ、柱に叩きつけられる
「ぐうっ」
「ほう、剣ですか。しかし、近づけなくては意味がありませんわよ」
「っつ、くそっ……」
込み上げてくる血を吐き捨て、痛みをこらえ立ち上がる。
だが、まだだ、まだいける。浅く息を吸い込むと、剣を彼女に向けた。
「……そうでなくては。簡単にやられてもらってはこちらとしてもやりがいが御座いませんわ」
「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおっ!!」
剣を構え、いつでも振り抜ける様にして駆け出す。
またもや〝地這い〟が襲いかかってくるが、無視する。
当たれば、一瞬にして足を絡め取られてしまうことだろう。
――まともに当たれば、の話だが。
軽くジャンプするが、飛び越えるには至らない。
絡め取られそうになる足。その瞬間、僕は履いていたブーツを絡め取ろうとしてくる力を利用し脱いだ。
そのまま裸足で、僕はカラユーイさんに接近する。
剣の届く、間合いに踏み込んだ。
だが、彼女の表情には微塵の動揺もない
「はぁっ!!」
「――〝泥塊壁〟」
剣を振りかぶった途端に、目の前に大きな泥の壁が飛び出して来た。
鈍い音を立てて、剣が泥の壁と衝突、衝撃が吸収される。
まずい。これまでの攻撃から考えるに彼女はこれだけでは終わらせない――!
すぐさま僕は、後方へとバックステップ。
すると予想通り、泥の壁を貫いて〝弾岩〟が正確に僕を狙って飛んでくる。
僕が何処にいるのかわからない状態で正確に僕を捉えて来た事実に戦慄を覚える。
だが、こちらも負けてはいられない。
ポケットから取り出したるは、前日に切った僕の爪。
魔力を内に溜め込む僕の特異体質によって、多分の魔力を含んだそれを身砕の魔術で以って現象へと転化する。
「〝爪弾き〟!」
人の体をも軽々と弾き飛ばす衝撃波で、〝弾岩〟を相殺。
同時に走り出し、もう一つ爪を取り出し残っていた壁の残骸を吹き飛ばす。
これでもう、彼女を守るものはない。
即座に剣を振り下ろす、が彼女はそれを杖で受け止めた。
魔力で肉体を強化しているのか、鍔迫り合いで中々押し切れない。
「……正直侮っていましたが、謝らなければいけませんわね。ですが、まだ足りませんわ! 背中ががら空きですわよ、〝土爪〟!」
瞬間、どすりと鋭い痛みが、脳髄を駆け巡る。
振り向けば、背中に長い土の針が刺さっている。
「あ……か、は」
口の中で血の味が噴き出した。
背中からも、血が流れ出ていくのかわかる。
体から力が抜けていき、地面に膝を突く。
カラユーイさんは数歩下がり、口を開く。
「……勝負ありましたわね。早く救急室に行くことをお勧めいたしますわ」
そう言うと彼女は背を向けてゆっくりと大広間を出て行こうとする。
朦朧としていく意識。体力はほとんど残っていない。
――けど。
「まだ、降参してないぞ……っ!」
最後の力を振り絞り、足に力を込める。
剣を振る気力はない。ならば、どうやって一矢報いるか。
ちらりと、僕は手のひらにべったりとついた血液を見る。
これなら、いける。
「は、何を言って――」
「燃えろ、僕の血潮」
瞬間、とてつもない大火力が周囲の空気を吹き飛ばした。
流石のカラユーイさんもこれは予想外だった様で、目を見開いている。
「これは、一体――!?」
「――〝血炎〟!」
身を削って燃え上がる炎が、大広間に吹き荒れる。
咄嗟に土の壁を作り出すカラユーイさんだが、慌てていたのか、些か強度不足の壁が出来上がる。
そんなものは時間稼ぎにすらなり得ない。
炎が、カラユーイさんにぶつかる。
とはいえ、直撃するほどの威力を最後まで保てず彼女の元まで来た時にはほとんど威力を失っていた。
それでも、人一人を吹き飛ばすぐらいの威力は残っていた。
「きゃあっ!?」
可愛らしい悲鳴を上げて、彼女は地面に叩きつけられた。
そのまま、気を失ったのか、動く様子はない。
「……勝った」
それを確信した瞬間。
僕を奮い立たせていた戦意が薄れていくのが分かった。
そのまま、僕の意識は闇の中に落ちていった――。
◇◆◇
目が覚めると、そこは見慣れた救急室の天井があった。
昔、魔法を習得しようとして色んなことに手を出した結果、よく見る様になってしまった。
何故ここにいるんだっけ、とそう思って起き上がると途端に誰かに抱きつかれた。
「よかった〜ルーちゃん起きた〜」
「ね、姉さん!? なんでここに!?」
「いやなんかルーちゃんが倒れたって聞いたから来たんだけど〜、まさか二日も目を覚まさないとは思わなかったぁ〜。ほんと、目が覚めないんじゃないかって怖かったよぉ〜」
二日!? 一体何がって、あ、そうだ僕はカラユーイさんと決闘して……。
「姉さん、カラユーイさんは!?」
「ふぇ、姫様? 姫様は――」
「目が覚めたか、ルータ・ダレンド」
いきなり割り込まれた言葉。
その言葉の主は部屋に入って来たばかりの兵士の格好をした男だった。
その男はこちらを見ると、忌々しげにこう言った。
「ルータ・ダレンド、及びサラネイ・ダレンド。至急王城に向かえ。国王様がお呼びだ」
……え?
僕の血潮〜ミミズだってオケラだってアメンボだって〜
みんなみんな行けているんだ友達なんだ〜♪